AMDは、Radeon GPU向けの新Windows用ドライバ「Radeon Software Adrenalin 2020 Edition」を提供開始した。
大型アップデートとなるRadeon Software Adrenalin 2020 Editionでは多くの機能追加/拡張が行なわれているが、なかでもゲームのレンダリング解像度を動的に上下させることでフレームレートを向上させる「Radeon Boost」は特筆すべき新機能となっている。
動的な解像度の変更とは、たとえば4K解像度(3,840×2,160ドット)のディスプレイでゲームを遊ぶさいに、状況に応じてゲームのレンダリング解像度をWQHD(2,160×1,440/75%)やフルHD(1,920×1,080ドット/50%)などネイティブ解像度よりも低いサイズへ移行するもの。同種の機能はすでに一部のPCゲームや家庭用ゲーム機のタイトルなどで実装されているが、それらの実装はシーンに関わらず一貫したフレームレートを実現することを目的としており、ゲーム中にシステム負荷が高まったとき(大量のエフェクト表示など)に負荷を軽減するため解像度を低下させるというのが一般的だ。
しかし、Radeon Boostはそれらと異なり、「プレイヤーの操作」をトリガーとして解像度を変動させる。たとえば、NPCが動き回りパーティクルが舞っているようなシーンを立ち止まって眺めたいと思ったとき、従来の動的解像度変更の実装では、そういったシーンでは描画負荷が高いことから自動で画質を落としてしまうため、プレイヤーは画質の劣化を見て取れてしまう。一方Radeon Boostは、プレイヤーが何も操作しなければたとえ負荷が高くともそのまま高解像度でレンダリングを行なってくれるので、グラフィックを楽しむ上で(フレームレートは下がるかもしれないが)視覚的損失はない。
ではどういったときに解像度を変動させるかというと、キャラクターの移動中や、マウスを振って周囲を素早く索敵したりといった動作を検知して解像度を変動させる。つまり“ユーザーが画面上の細部まで視認できていない”状況に限って、レンダリング解像度を下げてフレームレートを向上させるというわけだ。
実際にBorderlands 3でRadeon Boostを有効にしたデモを見た限りでは、キャラクターの移動中にフレームレートが大きく上昇しているにも関わらず、グラフィックの劣化はほぼ知覚できなかった。
なお常に一律の解像度まで下がるわけでなく、例えばゆっくり視点を動かしたときはネイティブ解像度の80%、素早く左右に視点を動かしたときは50%といったように、視覚的な損失を抑えるようにユーザーの画面視認性に応じて解像度が調整される。またRadeon Softwareからレンダリング解像度の下限も設定できる。
Radeon Boostは、本当はグラフィック設定を高くしたいが、移動や視点変更のスムーズさがゲーム性に大きく影響するためにフレームレートを引き上げるべく泣く泣く低設定にしているというプレイヤーにとっては願ってやまない機能と言えるだろう。
ただし、キャラクター操作をトリガーとする実装のため、残念ながらあらゆるゲームで有効にできる機能ではない。提供開始時点での対応ゲームはOverwatch、PUBG、Borderlands 3、Shadow of the Tomb Raider、Rise of the Tomb Raider、Destiny 2、GTA V、Call of Duty: WW2の7タイトルで、AMDによれは、順次サポートタイトルを追加していくという。
対応GPUはRadeon RX 400シリーズ(Polaris)以降で、Windows 7/10で利用できる。
Radeon GPU搭載のPCをホストとして別のデバイスからゲームを遊べる「AMD Link」も機能が拡張。最大50Mbpsまでの広帯域幅ストリーミングに対応したほか、x265エンコード対応による帯域幅の節約、インスタントGIF作成機能もサポートする。
さらにスマートフォン向けAMD Linkアプリを刷新(Android版は10日/iOS版は23日提供予定)し、インターネット経由でのストリーミングプレイが可能となった。接続にあたってはルーターのポート開放といった面倒な作業は不要で、Radeon SoftwareからWindows Firewallの設定も一括設定できるため、簡単に外出先からゲームプレイが可能になるという。
なお、前述のRadeon BoostはAMD Linkによるストリーミング時でも動作する。
Radeon Software Adrenalin 2020 Editionでは、実装要望が非常に高かったという「整数倍スケーリング」にも新たに対応。
IntelやNVIDIAの機能と同種のもので、バイリニアやバイキュービックなどの従来のアルゴリズムでは、レトロゲームなどをアップスケーリング表示するとぼやけた見た目になってしまうが、整数倍スケーリングでは高解像度ディスプレイでもクッキリした見た目で楽しめる。対応GPUはGCNベースのRadeon GPU以降。
機械学習ベースの画像処理フィルタ「DirectML Media Filter」も新たに追加され、静止画や動画でノイズ除去フィルタやアップスケーリングフィルタが利用できる。こちらはRadeon RX Vega以降のGPUとWindows 10 1903以降で動作する。
入力操作からゲーム画面の反映までの遅延を抑える「Radeon Anti-Lag」も、RX 5000シリーズ以前のGPUでDirectX 9タイトルでも動作するように改善。画面をクッキリとさせる「Image Sharpening」もDirectX 11対応やゲーム中のオン/オフ設定が可能となった。
Radeon Software内のストリーミング機能も使い勝手や操作性を改善。チューニングタブも初心者向けの簡易表示やエンスージアスト向けのメモリや電圧、ファン設定、ゲーム中の負荷ログなどが可能になっている。
Radeon Software全体のUIも新デザインに統一され、Steamなどストアを横断してゲームを起動できるライブラリ機能「Game Center」、システムステータスの表示、ゲームプリの録画やGIFアニメ化、オーバーレイのWebブラウザなどが実装されている。
インストーラも改善され、インストールに必要なクリック数を減らし初心者でも簡単に扱えるように配慮。細かなチューニングが必要ないユーザー向けに、インストール時にプロファイルを選択することで簡単に設定できる機能も追加された。
メディア向けの説明会には、米AMD ソフトウェア戦略&ユーザーエクスペリエンス担当 シニアディレクター Terry Makedon氏と米AMD ソフトウェアプロダクトマネージャー Pete Vagiakos氏が登壇。
Makedon氏は、Radeon Softwareは開発において「安定性」、「性能」、「機能」の3つを重要ポイントとして掲げており、その上でユーザーのフィードバックを基にアップデートを続けてきたと説明。
機能の面では、2015年のRadeon Software初投入から毎年平均で16の機能が追加されている。新機能実装についてはユーザーの投票で決定しており、本当にユーザーが求めている機能を追加してきたという。
性能の改善は平均12%の向上を果たしているとしたほか、外部コンサルタントによる動作安定性で93%を獲得、2019年の平均ユーザー評価は5つ星中4.5という高い評価を得られたとした。
とくに安定性の面では、内部の安定性テストの拡張、Microsoftと共同して実際のユーザー環境におけるクラッシュデータの収集/分析の実施などの取り組みを経て、今回の新ドライバでは、米Microsoft パートナーグループプログラムマネージャー Kam VedBrat氏から「AMDグラフィックスドライバとして過去最高の安定性を実現している」とコメントを受けるまでに至ったとアピール。
Makedon氏は、今回のアップデートでは全体で20の新機能/機能拡張を行なっており、前ドライバから最大12%の性能改善と過去最高の安定性を実現していると語った。
なお本件と直接の関係はないが、GeForceではゲーマー向けのドライバでOpenGLアプリケーションでの10bit出力に対応し、AdobeのPhotoshopやPremiere Proなど一部アプリで10bpc(約10.7億色)表示が可能となった。
これについてRadeon側の対応予定をMakedon氏に伺ったところ、残念ながら「いまのところユーザーからの要望も少ないため実装の予定はない」と回答が得られた。しかし、あくまでRadeon Softwareの機能追加はユーザーの要望に基づいているため、要望が高まれば実装を検討するとのことだったので、同機能を望むRadeonユーザー諸兄はぜひAMDに要望を送ってみてほしい。
2019-12-10 14:00:00Z
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