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Tuesday, March 10, 2020

グラミー受賞ヴァイオリニストが幼少期を漫画で描くワケ 同じ境遇親子の「心の支えになれたら」 - ORICON NEWS

 今年1月に発表された『第62回グラミー賞』で最優秀室内楽賞を受賞したアタッカ四重奏団/キャロライン・ショウのアルバム『オレンジ』に参加したヴァイオリニストの徳永慶子。アメリカを拠点に活動をする一方で、自身のインスタグラムでは、漫画『ヴァイオリニストができるまで』(@keikonomanga)で体験記を発表している。二足のわらじを履く彼女に、受賞時の様子や反響、インスタグラムで漫画を公開したきっかけや伝えたい想いについて語ってもらった。

『グラミー賞』受賞は一番のご褒美…驚き、震えが止まらなかった

――『第62回グラミー賞』で最優秀室内楽賞を受賞しました。受賞を知った時、どうでしたか?

徳永 アメリカの音楽界では最高峰の賞ということで、ノミネートされただけでも光栄でした。実際に受賞したと報告を受けたときは本当に驚き、震えが止まりませんでした。数年をかけて作り上げたプロダクトを多くの方に評価され、喜んでいただけたという事実が何より嬉しかったです。

――受賞後の反響はいかがですか?

徳永 おかげさまで、日本でもアメリカでも多くの方から祝福していただき、新しいお仕事のお話などもいただいております。以前から応援してくださっている方々に、こうして努力の成果をお見せすることができ嬉しいです。今回の受賞を通して初めて私やアタッカ四重奏団のことをたくさんの方々に知っていただけたことが、一番のご褒美のように感じられます。

――米国では、どのような活動を行っているのでしょうか?

徳永 先日退団したばかりなのですが、受賞作『オレンジ』は、私にとってアタッカ四重奏団での最後のアルバムとなりました。現在は、米国各地でフリーランスの室内楽オーケストラ奏者として活動する傍ら、ジュリアード音楽院予科とフォーダム大学でヴァイオリンやソルフェージュを教えています。そして、5月には東京でソロ公演も予定しています。

――徳永さんのインスタグラムでは、ご両親と共に取り組むヴァイオリン生活『ヴァイオリニストができるまで』が漫画で描かれています。なぜ、ご自身の体験を漫画にしようと思ったのでしょうか?

徳永 これは私に限ったことではないのですが、ヴァイオリンやピアノを幼い頃から一生懸命勉強している生徒さんとその親御さんは、非常にユニークな幼少期を体験することになります。過度な競争やプレッシャー、友達と遊ぶ時間や趣味などにあてがう時間もなく、練習に明け暮れ、次第に学校生活との両立も難しくなる。その一方で、舞台で成功したときに味わえる何とも言えない幸福感。実際に経験した人にしかわからない辛さと喜びが凝縮された時間です。お金もかかりますし、ご家庭によっては親子の仲が悪くなり、精神を病むケースもあります。私の経験を誰かにクスッと笑ってもらえたり、少しでも心の支えになったらいいな、と思い自分の体験談を形に残すことに決めました。

ヴァイオリニストと漫画…二足のわらじは大変だけど苦にならない

――ヴァイオリンとの出会いを教えてください。

徳永 ヴァイオリンを始めたのは、極めて不純な動機でした(笑)。幼い頃にどうしてもテレビに出演したくて、偶然観た「スズキヴァイオリン」の特集で、綺麗なドレスを着てヴァイオリンを弾く同い年くらいの女の子に目が釘付けになりました。母に「ヴァイオリンを習いたい!」とおねだりしたら、祖母が5歳の誕生日プレゼントでヴァイオリンを買ってくれました。初めて先生にヴァイオリンの音の出し方を教えていただいたときは、心からワクワクしました。

――ご両親に『グラミー賞』受賞を報告したとき、どのような反応でしたか?

徳永 受賞がわかった瞬間に連絡しました。両親も「ウソでしょ…!?」と信じ難かったようなのですが、インターネットなどでも情報が公開され、驚きつつもとても喜んでくれました。ヴァイオリンを本格的に勉強することができたのは、両親の弛まぬ努力と援助のおかげですので、こうしておめでたい報告をすることができ、少しは親孝行できたのかな、と思っています。

――漫画を描き始めたのは、いつ頃からでしょうか?

徳永 自分のオリジナル漫画をInstagramなどに載せ始めたのは2年ほど前からだったと思います。最初の頃は、ただ紙にペンで描いたものを写真に撮ってアップロードする、趣味のアカウントでした。だんだん夢中になり、コメントや「いいね」をいただけるようになってさらに頑張るようになりました。音楽もそうですが、自分が一生懸命作ったものを認めていただけるというのは幸せなことですよね。

――もともと絵を描くことが好きだったのでしょうか?

徳永 幼い頃から漫画やアニメ、ゲームが大好きで、よくお絵描きもしていました。小学生の頃、テレビゲーム『ゼルダの伝説』や『ファイナルファンタジー』のパロディーを4コマ漫画にして友達に見せたりすることが、とても楽しかったです。ふとした時に当時を思い出し、2年ほど前からまたイラストや漫画を描き始めました。

――ヴァイオリニストとして活躍する傍ら、漫画を描く日々は、大変ではないのでしょうか?

徳永 結構大変ですが、幸い苦にはなりません。ただヴァイオリンが本業ですので、漫画を描く時間を取ることが難しいのが悩みです。私は筆が遅い方なので、なるべく隙を見てちょこちょこ描くようにしています。仕事に行く途中の地下鉄やバスで下書きをして、夜自由な時間に少しずつペン入れをしていくようにしています。

漫画を描く時間は、心が休まる充電期間のようなもの

――徳永慶子さんにとって漫画を描くことは、どのような位置づけなのでしょうか?

徳永 私にとって漫画を描く時間は、心が休まる充電期間のようなものです。どんなにその日嫌なことがあっても、絵を描いているといつの間にか没頭していて、気がつくとストレスに感じていたことも「ま、いっか」と思うことができるようになります。いずれは書きためたものが形になったらいいな、という憧れはありますが、今はただ自分がお伝えしたいことを皆さまにお届けすることができることが何よりの幸せです。

――音楽仲間から漫画についての反響はいかがですか?

徳永 高校生で留学したので、音楽仲間は外国人が多く、「慶子の漫画、読んでみたいのに日本語だからわからない。英訳版を出して!」と催促されます(笑)。ヴァイオリンをやったことがある方からは、「私も同じことを経験したよ」と言っていただくことが多いですね。

――なぜ、ご自身のキャラクターを猫で描いているのでしょうか?

徳永 初めて自分自身をイラストにしてみた時、「私の外見って個性がないかも…」と思い、冗談半分で猫耳をつけてみました。そうしたら何となくしっくりきて、よく夫や友人からも「ケイコは猫みたいだよね」と言われるので、これでいいのかな、と。無類の猫好きですので、今はとても気に入っています。

――ヴァイオリニストを目指している方が、この漫画を読むととても励みになると思います。ヴァイオリニストとして活躍したいと思っている方に、どのようなことを伝えたいですか?

徳永 私自身の経験が参考になるかどうかはわかりませんが、私が信じていることを少しでも多くのヴァイオリニストたちとその親御さんにお伝えできたらいいな、と思いこの漫画を描き始めました。それは、何度もコンクールで落選したり、心ないことを言われたりしても、自分が好きなことを諦めずに続けていれば、いつかは必ず努力が報われるということです。もちろん大体のことは思い通りにはなりませんし、報われるまで時間がかかる人もいると思います。何度も挫けそうになったり、自信を喪失することもある、とても厳しい道です。でも、諦めさえしなければ、思っていた通りの形とは限りませんが、いつか夢は叶います。

徳永慶子

5歳でヴァイオリンを始め、7歳で桐朋学園子供のための音楽教室に入室。
17歳で渡米し、ジュリアード音楽院予科に編入。その後同楽院より学士、修士号およびアーティスト・ディプロマを得る。
2005年から2019年までアタッカ四重奏団に所属。2020年1月、アタッカ四重奏団/キャロライン・ショウ名義のアルバム『オレンジ』が、『第62回グラミー賞』で最優秀室内楽賞を受賞。
現在は、米国各地でフリーランスの室内楽オーケストラ奏者として活動する傍ら、ジュリアード音楽院予科とフォーダム大学でヴァイオリンやソルフェージュを教える。2020年5月には東京でソロ公演を予定している。

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