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Sunday, May 10, 2020

ポストコロナの時代を考える時のヒントになる「アルゴリズム フェアネス」とは? - @DIME

 2010年代後半から、テクノロジーを切り口に社会を語る“テックエッセイ”が、書籍市場を賑わしたり、キュレーションサイトやSNSなどで話題になっている。AI、IoT、ビックデータ、ブロックチェーン、5Gなど情報通信技術を扱うが、技術の解説書とは趣きが異なる。その技術が社会に与える影響などが軽妙で読みやすい内容に仕上げられているので、専門的な知識がなくとも理解しやすい。そして、テクノロジーを切り口に社会が語られることが多く、社会批評や思想書などの領域と重なる内容であることが少なくないことなどが特徴だ。

 こうした文章が求められている背景には、テクノロジーのトレンドの変化していることが理由にあるかもしれない。ゼロ年代から10年代の情報通信技術は、パソコン、スマホ、インターネット、SNSなどのように、個人が利用し、個人のライフスタイルを大きく変えていくことにインパクトの中心があった。けれど、それらの多くは、10年代後半になると大衆化し、日用品のようになっていく。以前ならばiPhoneなどスマホの新機種が登場すると、テレビのニュースやワイドショーでも取り上げられたが、最近は大した盛り上がりにはならないことがコモディティ化していることの典型ではないだろうか。

 一方、ここ数年は、前述のようなAI、IoT、ビックデータ、ブロックチェーン、5Gなど技術そのものが新しいトレンドとして話題になっている。これらは人々の生活を大きく変えるものではあるが、それが量販店やネット通販などの小売店で売られいるわけではなく、何かのサービスやアプリを通じて私たちに提供される。テクノロジーの接点はスマートフォンなど、いままでのデバイスだが、その向こう側にあるテクノロジーで大きなイノベーションが起きている。そして、その領域が、社会のありとあらゆるところに及びつつあるのも、昨今の流れといえるだろう。

 こうした変化と、テクノロジーを起点に社会を語る“テックエッセイ”のアプローチは、呼応関係にあるようだ。そして、書籍のスタイルで社会を語るもののキュレーションサイトやSNSなどで話題になるため、新聞や雑誌などを足場にしてきた従来の批評や論壇などの言説空間とは違うところで読者を掴んでいるところも、従来とは様子が異なる。

 この記事で取り上げる尾原和啓氏も、そうした書き手の一人だ。

フェアネスが意識されることで、アルゴリズムは自由を手に入れるパスポートに

 尾原氏の最新刊は2020年1月に上梓した『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)。タイトルに掲げる「アルゴリズム フェアネス」とは、尾原氏の造語で、本書全般はアルゴリズムという新しいコモンセンスによって、よりフェアな社会が作られている様子を描いている。

 フェアは、公平、公正などの意味で日本語の中にも浸透しているので理解しやすいだろうが、アルゴリズムのほうは少し説明が必要だろう。尾原氏も、この部分の説明に力を入れていて、本書全体がアルゴリズムという新しい常識が社会を塗り替えようとしていることの解説になっているといってもいい。


 本書で紹介したい言葉は一つ。「はじめに」でもその一端に触れましたが、「アルゴリズム フェアネス」という言葉です。聞き慣れない言葉でしょうが、世の中の不安を吹き飛ばし、私たちに明るい未来を提供してくれるかもしれないマジックワードなのです。

 とはいえ、そもそも「アルゴリズム フェアネス」とは何か。「アルゴリズム」と「フェアネス」に分けて紹介しましょう。

 まず「アルゴリズム」から。これは辞書的にいえば、「数学やコンピュータで問題を解くための手順を定式化したもの」です。もっと簡単に表現すれば、「優劣を決めるもの」と見なしていただけれたらと思います。

アルゴリズム フェアネス』16~17ページ


 その優劣の決め方には、単純な計算式が使われることもあれば、AIや機械学習が使われることもある。従来は、誰かが教えてくれたり、自分が生活するなかで自然に選んでいたようなことが、広い意味での計算式、つまりアルゴリズムによって優劣が決められ、人々の意思決定に影響を及ぼすことが日常茶飯事になっている。

 たとえばアルゴリズムは私たちに、Googleの検索結果、Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」、Facebookの「知り合いかも」、食べログの「近くでテイクアウトできるお店」などの形で“自然に”選択肢を示し、生活を便利にしている。このアルゴリズムによって得られる私たちの利点は何か?


 それによって私たちが得られるのは「自由」です。もしかすると、いまのあなたは「ここに住み、ここで働き、この人間関係だけのなかで生きていくしかない」と思い込んでいるかもしれません。しかしアルゴリズムを利用すれば、各人の事情を踏まえたうえで、もっと幅広い選択肢を提供してくれるはず。そこでアルゴリズムは、いまよりもっと自由と豊かさをもたらしてくれるパスポートのようなもの、と見なせば良いと思います。

 同書18ページ


 読者の中には、少し楽観的な見方では? と感じる方がいるかもしれない。それゆえにフェアネスを意識することが大切である、と尾原氏は考える。

「私が一貫して心掛けているのは、3年後に当たり前になっている概念を、きちんとわかりやすく伝えること。もうひとつは、テクノロジーを副作用から語らないこと。

 まず未来をポジティブに捉えたうえで、その副作用を真剣に考えるようにしています。

 たとえばAIのアルゴリズムによって、自由を増やしてくれる一方で、SFで描かれていたようなビックブラザーが現れ、データ監視社会になるという不安も出てきている。ならば、その影響力を知ったうえで、フェアネスについて考えて欲しい。そんな思いで、この本を書かせていただいたんです」

 つまり、『アルゴリズム フェアネス』は、自由のパスポート的な役割を果たすアルゴリズムのポテンシャルを知ることのできる書籍であると同時に、それがもたらす副作用を考える出発点にもなるということだろう。

 今回のコロナ禍を機に、AppleとGoogleが新型コロナウイルス対策としてBluetoothをベースにした濃厚接触の可能性を検出するプラットフォームの実現が目指されたり(報道発表資料)、テレビなどのニュースでは、人の動きがどう変わったかかが、ドコモKDDI、ソフトバンクの関連会社であるAgoopなどのデータによって伝えられている。いまの非常事では、社会に役立つものとして使われているが、それが平常時になったときにどうなるか。簡単に答えが出るトピックではないが、『アルゴリズム フェアネス』は、こうしたことを自分で考える際の糸口になるかもしれない。

ポスト・コロナを考える際に考えたい思想としてのブロックチェーン

 尾原氏の著書では、ブロックチェーンについて独立した章が設けられ、この技術の可能性について詳しく説かれている。


 かつて個人の自由は、国家が定義するものでした。それが昨今ではGAFAによって再定義され、拡張されました。しかし、誰かの自由の権利が大きくなることで、別の誰かの自由が奪われているかもしれません。はたして、その生殺与奪の権を民間企業に委ねてよいのかという疑問が湧くのは、当然です。

 だからこそ、みなで適正に監視する必要がある、というのが前章までの話ですが、もう一つ、次元の違う解決方法として登場したのがブロックチェーンなのです。

 国家にしろ、企業にしろ、そこに権力が集まるから歪みが生まれる。政治家による地元への利益誘導や、株主至上主義の経営、社内の出世競争などが典型例です。ならば、そもそも権力が一部に集まらないようにすればよい。つまり、全員がフラットな関係でつながれば、そこには歪みのない自由と公平だけが残るはずです。そうした究極のフェアネスをめざすのが、ブロックチェーンの思想の根本なのです。

同書175~176ページ


 尾原氏はブロックチェーンには3つの捉え方があり、その前提の了解がないままで語られているところを整理したいと考えている。その3つとは、投資や投機なども含んだビジネスとしてのブロックチェーン、技術としてのブロックチェーン、それが生まれてきた背景にある思想としてのブロックチェーンだ。

「日本では、投資や投機としてのブロックチェーンが最初に注目されましたよね。そして、いま取り組みが進み始めているのは、分散管理にすることでシンプルに軽くセキュリティが実現する技術としてのブロックチェーンです。でも、いちばん理解しなければならないのは、インターネットの始まりから通奏低音のように流れ続けているブロックチェーンの思想的な背景です。それは、自由の武器として、究極のフェアネスのためのブロックチェーンなんです」

 いま緊急事態宣言によって、私たちの生活は大幅に制限を受けている。この制限がいつ解除されるかの見通しは立たないが、ポスト・コロナの社会では、一定程度は個人を特定し、ときには監視できるテクノジーが行政機関によって用いられることが現実的になることも考えられる。そのような個人に影響を及ぼすテクノロジーが、了解された範囲を越えて使われないようにする、また、使われても対処ができるしくみをどう作るか。その一つの方法としてブロックチェーンのような技術に関心が高まるかもしれない。

 そうしたポスト・コロナの近未来を考える際にも『アルゴリズム フェアネス』は多くの示唆を与えてくれるに違いない。

尾原和啓
IT評論家/フューチャリスト
京都大学院で人工知能論を研究。90年代後半のMcKinsey時代に、急成長する携帯電話市場に関わり、退職後にドコモ入社。iモードの草創期から開発に携わる。その後、Googleや楽天などに籍をおいたほか、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなども務める。現在は、シンガポール、バリ島、東京をベースに精力的に活動する。『ITビジネスの原理』(NHK出版、2014)、『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』(ダイヤモンド社、2018)など著書多数。GAFAやBATHと日本企業が戦うための指南書『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』(ダイヤモンド社、共著)など著書多数。

取材・文/橋本 保

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May 11, 2020 at 05:29AM
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