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Monday, May 3, 2021

一見なんだか分からないピカソら「キュビズムの絵」 じつはヒントが… - 文春オンライン

 メッツァンジェという画家。そんなに有名ではないですが、ピカソに代表されるキュビズムの画家の一人、と言えばピンとくるかも。ちょっと変な絵だと感じるのもムリはありません。キュビズムの絵は見てすぐ分かるものではなく、見る人に考え、思い出し、再構成するなどの積極的な「参加」を求めるものだからです。

 キュビズムにはいくつかの発展段階があります。この絵のスタイルは成熟した段階にあたり、複数の視点で見た像を複合的に描いています。同じ物体でも、見る角度によっては違う形に見えます。例えば、コップは横から見れば長方形ですが、真上や底からは丸形。それらを同時に描くのですから、一見なんだか分からない絵になっています。

多数の視点が合成されているため、奥行は不明瞭に
ジャン・メッツァンジェ「円卓の上の静物」1916年 油彩・カンヴァス アーティゾン美術館所蔵

 しかし、何であるか特定できる断片や文字などのヒントがあります。たとえば、左下には帽子のような蓋がついた容器が認められ、その右下にはマッチ、パイプらしきものが。右上のいびつな六角形はランプシェードらしく、下部はグラスと一体化しています。左側に立てかけた冊子には「LA CARMENCITA」と読める文字が。画面いっぱいの雫形はテーブルの上面なのでしょう。

 このように多視点を合成すると形態がいびつになってしまいますが、キュビズムの題材には人物や静物など見慣れたものが多く、絵を見る人が記憶で補って何であるか推測できます。

 また、キュビズムの絵は目の前にあるものを写真のように写すことを目的にするのではなく、対象と現実に接したときの様々な角度から見た記憶や手触りまでをも盛り込んで表現しようとします。

 ところで、キュビズムの表現では対象が何であるか推測できるものの、奥行やもの同士の位置関係は不明瞭なままです。この不思議について、脳神経学者の岩田誠氏が『見る脳・描く脳』で面白い説明をしています。まず、人の脳は対象をそのまま見ているのではなく、色・動き・形態・奥行など別々に処理し、再構成しているそう。そして、キュビズムはこのうちの形態に特化し、奥行を捨象した絵だと。従来の絵画が「網膜絵画」であるのに対し、キュビズムら近代絵画は「脳の絵画」への移行だという面白い捉え方です。もし脳が奥行情報を処理できないと、対象物はこんな風に見えるのかもしれません。

 また、キュビズムの特徴はその名の通り、キューブ状の形にもあります。絵を描く人は知っているかもしれませんが、デッサンをするとき、対象を最初に大まかな幾何学図形で捉えます。完成した絵には残らないのですが、キュビズムは各対象を幾何学的に描くことで、絵画の制作プロセスまで完成形に入れ込んだともいえます。

 メッツァンジェは理論家で、仲間のグレーズとともに『キュビズムについて』という論考を1912年に発表。キュビズムの狙いをはじめて文章で明確にした人です。コラージュなどの彫塑よりの表現に進んだピカソとは少し違う系統で、カラフルで装飾的なデザイン性に富んでいるのが特徴です。

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