『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』(TAC出版)、発売されたばかりの『猫と生きる。』(扶桑社)が話題の、ミュージシャンで文筆家・猫沢エミさんのインタビューを3回に渡ってお届けします。50歳を迎えた、猫沢さんの暮らしや料理への向かい方、死生観、愛猫への思いなど、たっぷりとお話を伺います。 猫沢エミ ミュージシャン、文筆家、映画解説者、生活料理人。2002年に渡仏。2007年より10年間、フランス文化に特化した《Bonzour Japon》の編集長を務める。超実践型フランス語教室《にゃんフラ》主宰。著書に『東京下町時間』『フランスの更紗手帖』(ともにパイ インターナショナル)など多数。8年ぶりの新装版復刊となる『猫と生きる。』(扶桑社)が、発売されたばかり。
ーー先日パリに行かれていましたが、久しぶりに行って感じたことはありますか? 猫沢エミさん(以下、猫沢):今回のパリは行かなくてはいけない理由がいくつかあって。今年に入ってから愛猫のイオを含め、大事な人をどんどん見送り、これが人生なんだなとしみじみ思いました。フランス人の彼のお父さんも高齢で、長く寝たきりになっていたので、できるだけ早く会いたくて航空券を取ったのですが、残念ながらその1週間後に亡くなってしまい叶いませんでした。
でもそんな状況の中でも、パリに行ったのは本当に良かったなと思います。私も彼も悲しみを抱えた状態で、お互いに話すことで吐き出してカウンセリングができ、今どう思っているか、これからどうするかという話ができました。もちろんオンラインで毎日顔を見て話してはいるのですが、時間や時差を気にして話すので、やっぱり限界があるんですよね。人は言葉だけで会話をしているんじゃない、同じ空気の中でしか出てこない深い話や心の開きがちゃんとあるんだなと感じました。同じ日本にいても友達や家族に長く会えていないという人も、そんな心の酸欠状態みたいな感じが続いているんだと思います。 ーー自分を信じるってなかなか難しいことでもありますね。 猫沢:どうしても日本の人は誰かに褒められることを求めたり、基準が自分以外にいってしまいがち。自分のことを理解して認めてあげられるのは、世界で自分しかいないんですよね。自分のことを過不足なく把握して認められる人は、必ず他者からも認められていくようになると思うんです。友達同士のコミュニティや会社、家族、全てそう。自分自身が自分ときちんと向き合えず、認めてあげられないまま中途半端に人と関わろうとすると、承認欲求という形で現れたり、人が離れていく原因になってしまうと思います。携帯の中に友達が何人いるとか、表層的なことで人の孤独感は埋められない。きちんと人と関わるためには自分と向き合うことが近道で、その作業をしているときはひとりぼっちに感じるのですが、そのときすでに将来の親友や恋人、仕事仲間になる人に出会いはじめているんですよね。 猫沢:まだまだ自由に出かけられない中、自分と向き合う時間はたくさんある。逆手にとって読んでいなかった本を読んだり、作ってみようと思っていたレシピに取り組んだり、やるべきことややりたいことはいっぱいあると思うんです。そういう正しい忙しさに自分を置いていくのも大事かなと思います。これは私自身が孤独や人との付き合い方に悩んで、自分なりに考えた一つの方法でしかないのですが、もし私の考えを聞いて共感してくださる方がいたら、それぞれ自分に合った形でものにしてもらえたらうれしいなと思います。 ーー確かに実際に会って話すのとは全く違いますね。 猫沢:あの時期にパリに行って、フランスの社会の中で普通に何日か暮らしただけでも、ずいぶん未来を見ることができてすごく救われました。逆に日本に帰国した後、フランスへ行く前は我慢していたことがいろいろあったんだと気づいたり、感じたことはたくさんありました。今フランス移住に向けて準備中で、移住することは以前から決めていたのですが、自分が残りの人生をどう歩いていくか、はっきりとした目的が見えたのは大きかったです。 ーー外国に行くと、日本にいる自分を俯瞰で見ることができますよね。 猫沢:先日も同年代の友人と話している時に「老後が心配」という話が出て。私もそんなに遠い未来のことではないとは感じていますが、日本の人は50歳を過ぎた途端にお墓や介護のことなど、話がダイレクトにいき過ぎかなと思ったんです。50歳までの経験値を活かして、70代くらいまでは人生の中で一番豊かに生きることを、もう少し希望を持って考えてもいいのではと思います。フランス人のいいところは70歳になっても恋人を探したり、生きる気力がとても強いんですよね。どうなるかわからない明日の不確定な不安要素を見て、安全牌として今日を過ごすことを毎日繰り返していると、今日を生きていた人生って1日でもあったかなと考えてしまうんです。もちろん、今日のことだけを楽しんで生きられない日もあると思いますが、もしできなかったら明日でいいやって、より楽しい、明るいビジョンが持てるような考え方がもう少しあってもいいのかなと思います。フランスに行くと、みんな今しか生きていないので、あっという間に自分もそのモードに入れるのですが、私も結構真面目で心配性。だからこそ、どうすれば今を生きられるのか、常に考えているところがあります。 正しい自信の持ち方 ーー大切にされている考え方は、ほかにもありますか? 猫沢:「私はこう思う」という、価値観の基準になる定規のような指針を心の中にそっと持っておくことが大事だと思います。そうすると人から何を言われようと、違うなと思う意見は切り捨てることができます。自信って”自分を信じる”って書きますよね。「あの人って自信満々だよね」って自分を誇示する悪い意味で使われますが、私が思う自信は、自分のこと誰も見てくれないようなどん底の時期に、自分だけは自分のことを信じて、絶対に見捨てないと思える力だと思うんです。人間力が一番問われる”もう無理”っていうときに、そう思えるか思えないかは、どう生きたいかという指針があるかないかだと思います。必ず悪い時ばかりではなくて、それが長く続いたとしても浮上のきっかけは必ず来ます。 前回お話しした「自分を好きでい続けること」にも繋がりますが、ただ暗い気持ちで膝を抱えているのではなく、自分を磨いたり、自分と向き合ったり、今しかできないことをする。そうやって自分をケアしていると、次にいい波が来たときに明らかに前よりステップアップできると思うんですよね。それは“自分が自分を信じて、バックアップして応援したからそこまでいけたんだ”という強力な自信になっていきます。正しくポジティブに考えていると、歳をとるのは面白いなと思います。
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ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる 食べることは生きること。 料理のプロではなく、日々をよりよく生きるために食べ物をこしらえる生活料理人。自身のことをそう語る、50歳を迎えた猫沢エミさんの、生き方を紹介する一冊。
からの記事と詳細 ( 【猫沢エミさん・猫のようにしなやかに生きるヒント集5】自分を理解して認めてあげられるのは、世界で自分だけ(クウネル・サロン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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