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Tuesday, June 7, 2022

「問い合わせ率50%」から劇的改善、顧客の声をヒントにCX優良企業へ“逆転”できた理由 - ビジネス+IT

問い合わせ率50%、オペレーションのまずさによって顧客体験を下げることも

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島袋 孝一氏
島袋氏:SaaSビジネスのように成長ペースが早いビジネスでは、組織づくり、人づくりに課題を持つ企業が多いです。先ほどリソース不足の話もありましたが、具体的に、カスタマーサポートにも何か歪みがあったのですか?

高城氏:約5年前までは、注文2件に対して1件問い合わせがくるほどの割合でした。そのため、「カスタマーサポートにかかってくる電話が多くて取れない」「メールの返答が遅い」といった課題がありました。

 印刷サービスでは、お客さまから入稿データを受領しないと印刷を開始できません。しかし、このデータ確認に1日程度かかってしまうため納期がずれることにつながり、それが顧客体験を下げることもありました。

 これは印刷EC業界共通の課題だといえますが、「ラクスル」は業界外の人間が業界の常識にとらわれずに立ち上げたビジネスです。「この状態はイケてないよね」という思いがありました。

島袋氏:印刷の注文には顧客視点で「つまずく」ポイントがあると思います。問い合わせをしたい場面というか、これまでの商流はお客さまに営業担当者がつく「伴走型」が当たり前だったため、Webでの「セルフサービス型」の商流に対するギャップというのもあったのではないかと思います。

 あるいは、マーケティング施策とカスタマーサポートの連携がうまく取れないという背景も考えられます。ビジネスが急拡大する中で、マーケティング施策でお客さまとつながるペースにサポートが追いつかないという課題です。

高城氏:ラクスルの場合、繁閑という要素もあります。閑散期と繁忙期の注文数が「約4倍」と激しく、どの時期に合わせて体制を築くべきか、常に試行錯誤していました。

島袋氏:実際にカスタマーサポートのスタッフの育成など、人的リソースの量だけでなく質の課題に対し、どのように取り組んだのでしょうか。

高城氏:当初は、見えている課題に対して対処療法的に取り組んでいました。しかし、常にリソースが十分ではない状態だったため、重点的に解決される課題の選択と、投下リソースの集中が必要でした。当時は可視化しているすべての課題1つひとつに対応していたので、「これでは永遠に課題が解決しない」というジレンマを抱えていました。

 転機となったのは、「大事にするものを絞り込む」ことにしたときです。「お客さま提供価値ナンバーワン」を標榜して、そこにつながることだけは絶対にやりきろうと、メリハリつけるようになって状況が変わりました。

島袋氏:カスタマーサポートの指標も変わったのですか?

高城氏:良い体験をしたお客さまは、その後もサービスを使い続けます。そこで「2回目のリピート率」を指標として重要視したのです。

 一度利用したお客さまが30日後、60日後にどう行動したか、細かく数字を見ていくと、1回目の体験に不満があると、2回目の利用がないという点で明確な相関性が見られました。期待する体験とのギャップが少なくなることがLTV(顧客生涯価値)最大化につながることがわかりました。

お客さまにとっての良い体験が事業価値につながるとの思いで投資を継続

島袋氏:スマートな印刷の発注ができた体験がリピートにつながるということで、その体験を磨くことにフォーカスしたのですね。

高城氏:2回目のリピート率を高めるにあたって、大きな問題となったのが「注文約2件に対して1件」という問い合わせ率の高さでした。注文時にセルフサービスで問題を解決できない課題です。

 お客さまがよく見ているページを調べていくと「ご利用ガイド」の離脱率が高いことがわかりました。そこで、利用ガイドにひたすらコンテンツを追加していくこととサイトのUI改善に徹底的に注力しました。

 もう1つ重点的に取り組んだのが「データ確認の自動化」です。私がドイツに渡り、その分野の技術を持っている会社と顧問契約を結び、お客さまがデータをアップロードした瞬間に自動でデータを確認し、印刷にセットする仕組みを取り入れました。その結果、これまで人手で24時間かかっていた入稿データの確認作業を自動化することで、5~10分程度にまで短縮しました

島袋氏:大きく2つの取り組みにフォーカスしたことがターニングポイントになったのですね。では、顧客提供価値を高めるのに2回目のリピート率が大事だと、どのような経緯で気がついたのですか?

高城氏:私たちは、業務の改善であれ、新規事業の立ち上げであれ、徹底的にお客さまの悩みを聞くということをやっています。社内でお客さまに向き合っているメンバーの声を拾い上げ「N=1」の声を大事にしました。そのうえで、お客さまは、問題は認識しているものの解決策は持っていないという前提に立ち、自分たちで最善の解決策を考え抜くということを徹底しました。

島袋氏:顧客の声を拾うというのは、インタビュー力や質問力に通じると思いますが、可視化された問題ばかりではないので、潜在的な課題というのは聞き出す側の力量も必要だと思います。その点、何か知見があるのですか?

高城氏:UXデザイナーが質問のフレームワークを作るのですが、うまくいったインタビューを基に知見を蓄積しています。「なにが問題か」というような直接的な聞き方も良いですが、相手の実際の行動にフォーカスし、その行動の背後にある問題を明らかにし、言語化するようにしています。インタビューの目的が明確であればあるほど、自分が聞きたい答えに誘導してしまう力が働きやすくなるため、そうはならないように意識しています。

島袋氏:発注(決済)しないと印刷ができないという、注文フローを見直した取り組みについて教えてください。

高城氏:データの入稿が完了しないと印刷することができないのですが、そのためには「データ確認」「決済」がそろっていることが条件です。今までは決済が先・データ確認が後というフローでした。しかし、決済が完了しているにもかかわらず、翌日データ確認で印刷NGというケースがあって、これは通常のECではありえないことです。

 データ確認の自動化によって、今では先にデータ入稿してもらい決済は後でするというフローが確立できました。これが本来の印刷注文フローだと思いますが、ここにたどり着くのに3年かかりました。今でもこれを成立させているのはネット印刷業界では「ラクスル」だけです。

問い合わせ率低下の切り札となったFAQシステムの導入

島袋氏:お客さまにとっての体験をシンプルにしようとすると、かえってお客さまから問い合わせが増えてしまうのではないかという懸念はなかったですか?

高城氏:「ご利用ガイド」に関するユーザーサポートのためのコンテンツをたくさん作ったのですが、思ったほどアクセスは増えませんでした。

 どちらかというとリテラシーの高くないお客さまほど電話をかけてくる傾向があって、問い合わせ対応に人的リソースを割くと、それがコストになり価格や利益に関わってくるジレンマがあります。もちろん、顧客提供価値も下がります。そこで、FAQの仕組みを抜本的に変えようということで、FAQシステムのソリューションとして「Helpfeel」の導入を決めました。

島袋氏:Helpfeel採用の決め手となったポイントはどのあたりにありましたか?

高城氏:問い合わせに至るお客さまの体験としての、たとえば「問い合わせに対するFAQの検索ヒット率」といった指標を大事にしました。電話で問い合わせてくるお客さまは、ほかに選択肢がないと考えているわけで、FAQにアクセスする際のお客さま体験の良さ、快適さを大事にしました。

島袋氏:検索ヒット率という点で、印刷業界特有の用語や言い回しなどの面で難しさがあったのではないですか?

高城氏:「ご利用ガイド」のページは、問い合わせ率が40%くらいありました。印刷業界では「チラシ」のことを「フライヤー」や「パンフレット」、人によっては「ペラ」という人もいるため、類義語、連想ワードなどの検索がうまくいかなかったのです。約700ページのFAQページが疑問やトラブルの解決につながらず、有人対応を要する問い合わせが数多く発生していました。

 Helpfeelの導入後は、わずか1週間で検索ヒット率が50%アップし、ノーヒット率が32%ダウンしました。さらに、テレビCM放映時の問い合わせ急増に対しても、カスタマーサポートの応答品質を下げずに乗り越えることができました。真面目にコンテンツのチューニングに取り組んだことが功を奏したと思いますが、これはHelpfeelの手厚い伴走体制があったからだと思います。

個別の顧客の体験向上と経済性の両立が今後の課題

島袋氏:最後に、ラクスルが考えるCXの理想形について教えてください。

高城氏:顧客別の体験の最適化を進めることです。SaaSを含めた技術の進歩によって、きめ細かい最適化が可能になる世界が見えてきました。

 しかし、その一方で個別最適を進めすぎるとビジネスとしての経済性は悪くなります。ですから、「ユニバーサルサービス」のような発想で、ある程度の基盤の部分が重要になってくるのかなと思います。個別の顧客の体験向上と経済性の両立をどう実現していくかが、プラットフォームやEC事業者にとっては重要なポイントになると思います。

 お客さまの満足度や提供価値が、選ばれ続けるブランドになり、事業継続に非常に重要だということが、ラクスルのビジネスを通じてわかったことです。

 関係者やチーム、部署単位でもいいので、一度集まって、立ち止まってみて、自分たちはどういうサービスをお客さまに提供し、どんな価値を提供しているのかを考えてみるとよいと思います。ステークホルダー全員で目指せる「ビジョン」を共有することを大事にして、良い顧客体験を提供してほしいです。

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