生活様式に変化のあったこの2年半。こと料理と食事に関しては、いつにも増して献立に困った、という人もいただろう。そんな台所の「ネタ切れ」に救いの手を差し伸べたのが、日本を代表するフランス料理のシェフ、三國清三さんだった。自身のユーチューブチャンネルを開設し、発信したレシピなどは実に880本以上。「バリエーション、引き出しがあれば」と、ほぼ毎日1品を紹介し、3食の献立に悩む家庭の作り手に寄り添ってきた。(津川綾子)
最初の緊急事態宣言の発令から間もない令和2年4月11日。三國さんのユーチューブチャンネル「オテル・ドゥ・ミクニ」にあがった最初の料理動画のメニューは、ジャーマンポテトだった。
「ご主人が帰ってきてからのビールのおつまみに最高で、子供たちも大好き」(三國さん)という一品は、ベーコン、ジャガイモ、塩、コショウ、無塩バターと材料は5つだけ。
まずベーコン、次にジャガイモ、焼き色がついたらさらにバター…とフライパンをふるうこと数分。ジュワジュワとはじけるように焼ける音が、食欲をそそる。
紹介するレシピの大半は、スーパーで手に入る食材を使い、簡単にできるもの。盛り付けもお皿にさっとのせるだけ。
「あまりにきれいに作ると、(それを見た人が)あきらめちゃう。ああ、もう無理、無理って。作って役に立つレシピでないといけないから、難しい食材を使わずに、仕上げも凝り過ぎないものにしている」と三國さんは話す。
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レシピにはフライパン一つで作れる「ワンパン料理」が目立つ。
「フライパンの(焼く)音は大事な音。これが聞こえないと」。なぜなら、化学調味料を使わないフランス料理では、「炒めたり、焦がしたりして、それでうまみを作っていくから」だ。
だから三國さんは、焼き加減や熱の入れ方を丁寧に伝える。例えば、フライパンで作るローストビーフ。日本でいうミディアムレアに近い「セニャン」に仕上げるには、はじめはフライパンを強めの中火にかけ、脂身側から焼いて、脂の香りを引き出す。肉を返して、すべての面が焼けたら、弱めの中火に切り替える、というように。
人気の高い136品をまとめたレシピ本「スーパーの食材でフランス家庭料理をつくる 三國シェフのベスト・レシピ136 永久保存版」(KADOKAWA)では、表紙、目次の次は「だれでも料理の腕が上がる12のポイント」などに割き、「中火は手をかざした時にお風呂と同じくらいに感じる温度、強火は煙が多少立つくらい」と、分かりやすく目安を示した。
オーブンがないけれどローストビーフが食べたい、といった「簡単レシピ」を求める声だけでなく、動画では「マデラソースが作りたい」など通好みの要望にも応えてきた。
「誰が作っても、焼いて調味料を混ぜれば絶対おいしい味になるっていうのがみそ」というレシピの発信を続けた理由を問うと、「最初はね、(緊急事態宣言で)お店が開けなくなったから」だったが、20代の頃、スイスで軍縮会議日本政府代表部大使の食卓を毎日支えた経験から、「3食毎日作り続ける人の気持ちや大変さが分かるから」。
ユーチューブのチャンネル登録者数は36万人超。今日もまた、献立に迷う人々に、おかずのヒントと料理の楽しさを伝える。
■プロフィル
三國清三(みくに・きよみ) 昭和29年、北海道・増毛町生まれ。15歳で料理人を志し、札幌グランドホテル、帝国ホテルで修業後、スイス・ジュネーブの軍縮会議日本政府代表部大使付きの料理長を務める。昭和60年、東京・四ツ谷にオテル・ドゥ・ミクニを開店。2015(平成27)年、フランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受章。
からの記事と詳細 ( 「3食作るの大変だから」おかずのヒントを食卓に フレンチの巨匠・三國シェフ - 産経ニュース )
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