超「ウェスっぽい」スポットを満喫、の展覧会
『グランド・ブダペスト・ホテル』『ダージリン急行』『犬ヶ島』……。ウェス・アンダーソン監督の映画を一作でも見たことがある方は、その「おしゃれ」で「個性的」な世界観がなんとなくイメージとして記憶に刻まれているのではないでしょうか。
クセになりそうなパステルカラーの色使い、徹底的にシンメトリックな画面構成、真っ正面を向いて出てくる不思議な表情をした人々が織り成す変わったヒューマンドラマなど、一度見たら忘れられないインパクトがあります。そのような唯一無二の作品世界を作り出すウェス・アンダーソンは、年齢、性別、国籍問わず世界中に熱狂的ファンを持つ映画監督です。
そんな彼あってこそ生まれたと言える人気InstagramコミュニティがAWA。世界の実在の風景から、ウェス・アンダーソンの映画に出てきそうな場所を撮影し投稿するコミュニティで、今や参加者が170万人を超えるほどに急成長しています。今回東京・天王洲寺田倉庫G1ビルで開催されている「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」は、AWAに投稿された写真から300点余りが厳選されて、旅に関する10のキーワードのコーナーで紹介されています。実際、インスタでハッシュタグ「#AWA」で検索すると↓こんな感じで楽しい投稿がざくざく出てきます。
https://www.instagram.com/explore/tags/awa/
さて、それでは本題。展覧会場を紹介します。足を踏み入れた直後から「超ウェスっぽい」と思ったのですが、そもそも「ウェスっぽい」とはどういうことなのでしょうか?今展担当のBunkamuraザ・ミュージアム学芸員岡田由里さんによると「シンメトリーであること、色彩がピンクやターコイズであること、デコラティブであることが、主な特徴です」とのこと。
とてもわかりやすい!まさにこういうことですね。
おとぎの国に迷い込んだかのような、ポップなパステルカラーや不思議な形が次々と登場するので「実はウェスの映画のセッティングなのでは?」と錯覚しそうになるほど。「いやいや、世界のどこかにあるのだよ」と意識を戻して、「もしかしたらもしかして行く時が来るかも?」などと思いながらめぐると、より鑑賞に熱が入ります。そして、夢の中の世界のようなビジュアルとは裏腹に、現実感を高めてくれるのがキャプションです。そこには、風景に隠された思い出や歴史などのストーリーがライブ感たっぷりに書かれていて、「この世に存在し続けてきた場所なんだ」と実感させてくれるのです。
人気の「アンダーソンすぎる」スポット
例えば、青空に映える、ピンク色をした3本の煙突のような建築物。「SUGAR」、「MILK」、「COCOA」とデカデカと書いてあり、漫画みたいです。
キャプションを読むと、ここがアメリカ、オハイオ州のハイウェイ上にそびえるマリーズ・チョコレート工場の貯蔵タンクであることが分かります。書かれている文字はそれぞれの貯蔵タンクに入っている材料。設立者のアルバート・マイク・マリーは、幼い頃チョコレート屋で働きながらその製法を学び、1935年に500ドルで小さな店を借り入れて家族と一緒に店の裏手の家に引っ越したとのこと。それから15年ほどして2号店を開店すると警察が出動するほど大勢の人が押し寄せたそうです。ダテにポップなだけではなく背景も面白い!
会場内には、実際にこの煙突を目の前にしたかのように感じるセッティングがありました。
ちゃっかり写真の中の人たちと一緒になってパチリ。
「ブダペスト」にあるホテルも
次に、ぜひとも泊まってみたいと思ったのは、こんなスパがあるホテルです。ブダペストにありますが、『グランド・ブダペスト・ホテル』に登場したというわけではありません。念のため。
ハンガリー、ブダペストのコリンシア・ホテルです。1896年の開業時には革新的な上流階級の社交の場だったとのこと。映画装置の発明家で最初の映画製作者であるリュミエール兄弟も宿泊して、ここで最初の映画上映を実施したというのですから歴史を感じます。スパを設計したのはハンガリー神建築家ビルモス・フロイントで、蒸気浴場、シャワー室、電気浴場を備え、最新の豪華な施設にしました。1950~60年代に発生した火災で本来の姿をほとんど失ってしまいますが、2000年初頭に華やかな過去を想起させるホテルとして再生されたとのことです。宿泊料金をネットで調べてみると、平均36,189円と出ました。実際に泊まれてしまうのですね~。
電車で移動気分になれるセッティングもあります。
ゴーストタウンも「アンダーソンすぎる」
嘘でしょう!と思いながらも行ってみたくなったのがこちら。部屋に砂漠の砂がどっさり流れ込んで来ています。
ここはコールマンスコップというアフリカ・ナミビア南部のゴーストタウン。1908年、ザカリアス・ルアラという鉱夫がこの地域で働いていたところダイヤモンドらしき鉱石を発見しました。それが本物で、当時ナミビアを支配していたドイツからダイヤモンド採掘のためにたくさんの鉱夫たちが派遣されてきたそうです。急速に発展していったこの地には、南半球で初めてのレントゲン装置を導入した病院が建てられたり、アフリカ初のトラムが運行されたり、ヨーロッパのオペラ歌劇団が公演をしにやってきたりしたとのこと。どんなに華やかだったことでしょう。しかし、第二次世界対戦後にコールマンスコップのダイヤモンド採掘場は次第に枯渇していき、住民はどんどん流出しました。1956年には完全に見捨てられてしまったこの街は、ゴーストタウンとなってしまったのです。2002年に地元企業がこのゴーストタウンを観光地とする開発を始めたので、砂で覆われたミステリアスな都市をバスで巡ることができるようになったそうです。背景を知り、より一層行ってみたくなりました。
「アンダーソンすぎる」in Japan
そして、「ウェス・アンダーソンすぎる風景」は、なんと日本にもありました。みなさん、どこだか分かりますか?
三重県にある日本で5番目に大きな遊園地、ナガシマスパーランドです。ジェットコースターを楽しむのに最高の遊園地として選ばれたこともあるそうで、10種類以上あるジェットコースターの中でも人気なのが写真にあるホワイトサイクロン。木の伐採が厳しく規制されている日本では珍しく、すべて木造の大型構造物で、螺旋形のコースや大きな落差があるそうです。水色の空に、ちょっと能天気な感じもする白い雲と相まって、なんとも非現実的な光景にみえます。ミステリアスな情景をまとめてどこかへ行こうと考えるとまずは「海外」と思いがちですが、実は国内など身近な場所にも驚くべき光景が潜んでいる可能性をこの写真は物語っているのではないでしょうか。
また、会場内には、ウェス・アンダーソン監督の映画ファンにはたまらないコーナーもあります。『グランド・ブダペスト・ホテル』の世界観が再現されたセッティングの中で、ホテルを散策するキャラクターになりきってみては?
旅行計画のインスピレーション源にもピッタリ
展覧会自体が、「死ぬまでに一度行きたい世界の絶景ガイドブック」みたいな感じなので、旅行計画のインスピレーション源として訪れるのも良さそうです。絶景とユニークなストーリーのオンパレードなので、普段はいけない場所をはしごして濃厚な時間を過ごしたような満足感がありました。展覧会場がある天王洲アイルもアートスポットが多い水の街ですので、ダブルで夢心地の非日常感を楽しめるかもしれません!(ライター・菊池麻衣子)
ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている |
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会場:東京・天王洲 寺田倉庫G1ビル(東京都品川区東品川2-6-4) |
会期:2023年4月5日(水) ~ 5月26日(金) ※休館日なし |
開館時間:11:00 ~ 19:00 *毎週金・土曜日は11:00~20時(入館は閉館の各30分前まで) |
料金:一般2000円/大学生1500円/高校生以下1000円 |
アクセス:りんかい線 天王洲アイル駅B出口より徒歩4分、東京モノレール羽田空港線 天王洲アイル駅中央口より徒歩5分 |
展覧会公式サイト:https://awa2023.jp/ |
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