サービスの意味や価値を捉え直す「リフレーミング」
石塚賢氏(以下、石塚):続いて「法則をどう活用・転用するか」について。見つけた法則を起点に、お客さまの求める価値や体験を創出して、サービスの意味や価値を捉え直すお話で、今日の本丸ですね。
その前に、新しい価値・良いアイデアの定義をご説明します。これは、Greg A.Stevensと James Burleyの有名な論文ですが、1つの成功するプロダクトを開発するためには、3,000を超えるアイデア創出が必要だと言われています。
3,000の「Raw Idea(ローアイデア)=生のアイデア」の中の300のアイデアが実際に提出されて、125のスモールプロジェクトになり、9個が開発されて、4個が「Major Development(メジャーデベロップメント)=本開発」に入って、1.7個がローンチされたけど、成功したのはそのうちの1個だったと。
まさに、「しっかりと量を担保しなければならない」という証明になるんですよね。
(スライドの)これも非常に有名な有識者の言葉です。
「新しい知とは常に『既存の知』と『別の既存の知』の『新しい組み合わせ』で生まれる(ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター)」。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない(ジェームズ・W・ヤング)」。
これらは、よく言われている話だと思います。
ポイントは2つです。「発見した法則からいかに多くのアイデアを出せるか?」と「発見した法則と既存のアイデアを組み合わせて、新しいアイデアを創出できるか?」。これらが価値の創出や捉え直しの大前提としてある考え方になります。
切り口を増やすための「視点の移動」
では、どんなことをしていくか。1つ目は、数を増やしていくために「視点の移動」を行います。アイデアを考えることと、切り口を増やすことの2つですね。
2つ目は「アナロジーの活用」。既存の知の組み合わせとはいえ、そのまま既存のサービスのアイデアを使うと、パクりになってしまいます。「パクらないためにはどうしたらいいのか?」を、アナロジーの活用で説明します。
まずは視点の移動、切り口を増やす話です。これは、聞いたことがある方もいらっしゃると思うのですが、「How Might We」という手法が代表的なメソッドです。
明らかになった法則を複数の着眼点で捉え直すことで、強制的にアイデア創出ができるバリエーションを担保する方法論です。
「How Might We」とは、「我々はどうすれば〇〇できるのか」と捉え直していくこと。「我々はどうすれば明らかになった事実の良い点を伸ばすことができるのか」「どうやったら悪い面をなくすことができるのか」というのが、「How Might We」です。これはご存じの方もたくさんいらっしゃると思います。
例えば「How Might We Question」の例です。「夫婦間のタスク認識の不一致によるタスクの超過」で言うと、「どうすれば夫婦間のタスク認識の不一致を解消できるか?」という負の解消です。
また「どうすれば、夫婦間のタスク認識の不一致を解消せずに、奥さんのタスク超過を解消できるか?」。負の解消をせずに、どうやって課題解決できるのかということです。あとは、「どうすれば、夫婦間で妻のタスクが超過していると認識できるか?」というように、1つの法則を出発点に、いろいろな言い換えをしていく。
この言い換えした結果を起点にアイデアを考えるので、言い換えの結果ごとにアイデアが出てきます。出発点としては1個の法則だけど、そこからかなりバリエーションが生まれる。そんなフレームワークになります。
異なる領域からヒントを得る、「アナロジー」活用の3ステップ
続いて「アナロジーの活用」です。アナログとも言いますが、発見した法則と類似の法則を持つ別の領域の解決策を借りてきて、課題解決の手法に適用することを、このセミナーでは「アナロジー」と定義しています。
例えば、「稼働率の低い資産のシェア」をアナロジーとして活用した例として有名なのが、AirbnbとUberです。領域はぜんぜん違いますが、活用している仕組みや解決する課題、価値は非常に類似している例だと思います。これは稼働率の低い資産のシェアという手法を、捉え方を少し変えて使うことで良いサービスになった例ですね。
アナロジー活用のステップとして、まずはアナロジーを活用する法則を設定します。その上で、まったく同じ領域の課題ではなく少し領域をズラし、ターゲット領域の設定と探索を行います。要は、ヒントを見つける作業です。ヒントをしっかりと見つけた上で、アイデア創出を行う。この3ステップです。
まずは発見した法則から、その原因になる部分と結果の部分を特定します。例えば、「夫婦間のタスク認識の不一致によるタスクの超過」という法則なら、夫婦間のタスクの「認識の不一致」という部分が原因になると思います。「タスクの超過」が結果の部分です。
法則の中にある原因と結果を特定したら、(スライドのように)その原因と結果以外の部分を空欄にします。「夫婦間のタスク」と「タスクが超過している」部分が、今回の法則の特有のポイントになります。
それを空欄にすることで、別のターゲット領域を探しやすくするフレームを作ることができます。
作成したフレームの活用法
作成したフレームを活用して、まずは主語となるユーザーや主体を書き換えます。この時、もとの主語のユーザーや領域からなるべく遠い要素に書き換えることを心掛けてください。
例えば「夫婦間」を「男女間」に変えたり、「社員間」に変えたり、「デバイス間」に変えてみるイメージです。まずは主語のバリエーションをたくさん増やします。
主語を置き換えたあと、このユーザーを起点に目的や対象を適正な内容に書き換えて、アナロジーの参照もとになるターゲット領域を複数設定します。
例えば、「男女間の認識の不一致には、どんなものがあるかなぁ」「性格や趣味趣向の不一致によってコミュニケーションコストがかかるな」と思い巡らせるような感じですね。
これは、みなさんの身の回りのことだったり、他のインタビューで明らかになったことだったり、インターネットで「男女間 不一致」みたいに検索してみてもいいかもしれません。そんな感じでターゲットの領域になる情報を複数設定していきます。
他には、社員間のタスク完了の認識不一致によるコミュニケーションコストだったり......といったイメージですね。そんなことをやって、ターゲット領域の候補になる情報をたくさん増やしていきます。
リサーチのヒントを作る「探索フレーム」
そのあとは非常にシンプルです。探索のフレームがたくさんできると思うんですよね。「男女間の趣味趣向の認識の不一致によって、コミュニケーションコストが超過する状態を解決しているアイデアは何かないかな」とリサーチしていく。リサーチのヒントを作るのが探索フレームの効果です。
例えば、男女間の趣味趣向の認識の不一致でいうと、マッチングアプリでお互いの趣味趣向やこだわりを知ることができる機能がある。また、社員間のタスク完了の認識の不一致は、「Trello」というサービスではカンバンボードでチームのタスクや内容を完了したり、条件・ステータスがわかるものを作ったりして明らかにしている。
異業種の良いソリューションがアイデアのヒントとしてどんどん出てくる状態を作ります。
解決策のリサーチ結果は、タイトルやスクリーンキャプチャ、課題解決につながりそうなポイントを明記していく。すると、アイデア創出に活用しやすい状態が作れると思います。
探索したヒントを活用して、どんどんアイデアを創出していく。やることは、このアナロジーを活用して、他領域の同一の課題を解決したアイデアをもとに、どんどんアイデアを作っていくこと。
先ほどの例だと「夫婦間でお互いがんばっていることややりたいことを確認することができる」「夫婦間のお互いの忙しさのステータスを共有できる」などにつながっていくと考えます。
あとは、近年台頭しているサービスを分析して、その価値を抽象化したNEWh独自のサービスアイデア創出のためのフレームワークもあります。
「オンデマンドにする」「分割する」「結合する」をヒントに、アイデアを作っていくことを我々はやっています。
リフレーミングと確信獲得に有効な手立て
まとめです。事業開発の仮説と検証を繰り返しながら、6つの要素を持ったビジネスモデルの中で確証と確信を得ていくことを、今日は説明しました。
その中で、しっかりと成功の確信が持てる状態、つまり「お客さんの課題はこれだよね」「いけそう」と思える事業アイデアが生み出せる状態や、これからユーザーインタビューだけど、質のいい仮説を設定できた状態を目指したい。そのためには、しっかりと法則の発見をして、発見した法則を活用することが必要だと考えています。
法則の発見のための3ステップとしては、まず共通点を見つけて、関係性を把握して、概念を発見する。共通点とは、状態や行動・発言・事象・属性・目的を、明らかになった事実から抽出してグループ化していくことです。
さらに関係性を明らかにして、「ユーザーは本質的にどこに困っているんだっけ?」という構造を見抜いていきます。
構造を見抜きながら、その構造をしっかりと抽象化・概念化する。抽象化して、関係性をシンプルにして、その中でいろいろな切り口で捉え直して概念化することも必要です。
このように法則を明らかにした上で、視点の移動をして、アイデアを考えていく切り口をたくさん作る。それとともに、法則を起点に、他領域のアイデアが探しやすい探索のフレームを作って、アイデア出しのヒントにしていく。
以上がリフレーミングや確信獲得に有効な手立てとして、今日お伝えした内容です。本日はお忙しい中ありがとうございました。
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