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Tuesday, July 2, 2024

『ジュラシック・パーク』にヒント。DNAやデータをガラス状ポリマーに長期保存する技術、米国の研究チームが開発 - WIRED.jp

映画『ジュラシック・パーク』には、恐竜の血を吸った直後に樹液に包まれて琥珀に閉じ込められていた蚊からDNAを取り出し、太古の昔に絶滅した恐竜を復活させるシーンが描かれている。そんな印象的なシーンからヒントを得て、このほどDNAを常温で保存できる琥珀によく似たガラス状のポリマーが開発された

DNAの長期保存に用いられる最も一般的な手段は冷凍することだ。しかし、長期にわたって凍結状態を維持するには莫大な電力を必要とすることから、DNAを保管しておける地域や規模はどうしても限定されてしまう。そこで、常温保存できる技術が求められていたわけだ。

「DNAを保存するには凍らせることがいちばんですが、コストの観点から拡張性は期待できません。わたしたちが開発した新たな保存方法が、デジタル情報をDNAに刻むという未来の技術への一歩になると信じています」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士研究員を務めたジェームズ・バナルは語る

この「T-REX(Thermoset-REinforced Xeropreservation)」と名付けられた新たな手法は、熱硬化性のポリマーで熱や水分から分子を保護することで、DNAの常温保存を可能にしている。今回、研究者たちはヒトゲノムだけでなく、写真や音楽といったデジタルファイルをDNAシークエンシングにエンコードする(DNAを構成する4つの塩基であるアデニン=A、チミン=T、グアニン=G、シトシン=Cの配列に符号化する)ことで保存し、さらに情報を欠損させることなくポリマーから取り出すことにも成功した。

熱で硬化して分解も容易

T-REXが誕生したきっかけは、バナルがMITの博士研究員だった2021年にさかのぼる。バナルは当時の指導教官で生物工学者のマーク・バス教授とともに、二酸化ケイ素(シリカ)の粒子にDNAを保存する方法を開発した。

しかし、この保存方法には、シリカ粒子にDNAを埋め込むために数日を要するという欠点があった。また、粒子からDNAを取り出す際にはフッ化水素酸が必要で、研究者にとって危険が伴う作業だった。ちなみにフッ化水素酸は、触れるものを腐食させる危険な毒物としても知られる。

このため、より実用的な保存方法を実現するには、DNAを埋め込むための別の物質を模索する必要があった。ここで重要なことは、熱を加えることで硬化し、意図的に分解できるような結合構造をもつポリマーであることだ。

そしてたどり着いたのが、スチレンをベースに架橋(ポリマー同士を連結して化学的性質を変化させること)によって琥珀のような熱硬化性をもたせたポリスチレンだった。その際、スチレンモノマーと架橋剤をチオノラクトンと共重合させることで、システアミンによって結合を分解できる性質をもたせたという。

この熱硬化性ポリマーは、スチレンがもつ疎水性(水との親和性が低いこと)によって水分によるDNAの損傷を防いでくれる。一方、DNAは親水性で負電荷をもつ。そこで研究者たちは、DNAを水から隔離すると同時にスチレンと相互作用するようなモノマーの組み合わせを特定した。具体的には、正電荷をもつDNAを中心に、疎水性のスチレンと作用する外層に包まれた球状の複合体である。これに熱を加えることで、ポリマーはDNAを埋め込まれたガラス状のブロックを形成するという仕組みだ。

生命のマスターレコードを永久保存

DNAは非常に安定した分子であり、膨大な量の情報を保存する目的に適している。理論的には、コーヒーカップ1杯分のDNAに、この世のすべての情報を保存できるほど高密度とされている。0と1の組み合わせで保存するデジタルデータと同様に、遺伝子コードを構成する4つのヌクレオチド(A、T、G、C)の組み合わせによって、あらゆる情報をDNAにエンコードできるわけだ。

今回、研究者たちは「奴隷解放宣言」の内容やMITのロゴ、『ジュラシック・パーク』のテーマ曲をDNAにエンコードして保存することで、数十個のヌクレオチドから完全なヒトゲノムにいたるまで、さまざまな容量の情報をDNAとして記録しておけることを実証した。また、それらのデータをDNAから取り出した際に、情報の欠損は認められなかったという。さらに、T-REXに用いた熱硬化性ポリマーは、最大温度75℃までならDNAを保護できることが示された。

T-REXでDNAをポリマーに埋め込むには数時間を要するが、ポリマーの成形プロセスを最適化することで、さらなる短縮が見込まれるという。「いまから10年、20年先には、わたしたちの想像を絶するほどテクノロジーは進歩しているでしょう。永久に保存できる生命のマスターレコードも夢ではありません」と、バナルは今後の発展に期待を寄せる。

現在、バナルはバスやほかの研究者たちとCache DNAというスタートアップを立ち上げ、さらなるDNA保存技術を追求している。最も早い段階で実用化が期待できるのは、個別化医療を目的としたゲノムの保存だという。これが実現できれば、患者のゲノムを長期保存して未来の医療技術に託すことが可能になるかもしれない。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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