秋田書店の漫画編集者を経て、元『コミックビーム』編集総長もつとめた“O村”こと奥村勝彦さんが漫画界の歴史&激動の編集者人生を独自の視点で振り返る!
一浪二留!! 漫画との出逢ひ
あー。今、ウチの会社でも面接だの何だのやっとりますが、俺が大学を卒業した年(昭和62年、1987年)の就職活動てのは、基本的に大学の掲示板を見たり、会社に電話して聞くなりして履歴書をシコシコ書いて面接を受けに行く、というシンプルなものだった。
ただし、時代はバブル期真っただ中だったので、各企業は早期に学生を囲い込んで、海外に連れ出したりする様な事が多数あった……らしい。
当然、俺はバブルの恩恵を全く受けない若干の例外に属していた。経済学部のゴージャスな掲示板の横には、俺の所属する文学部の掲示板があり、そこには非常につつましい数の求人票がひっそりと張られていた。
その上、その数少ない求人票の求人条件に、いずれも俺の年齢は合致してねえんでやんの。
そらまあ、1年浪人したうえに、ご丁寧にも2年留年しちまったもんで自業自得としか言えねえんだけどもな。
あー困った、こりゃ水商売に行くしかねえなあ(知り合いが経営していたクラブでは、その年からバニーガールを入れることに決まっていて、俺の心はそちらに傾きかけていた。バニーガールだぜ!! バニー!!)と思って、汚い四畳半を見回してみたら、そこにはつげ義春さん、大友克洋さん、かわぐちかいじさん、狩撫麻礼さんのコミックスが雑然と転がっていた………ん、漫画かあ、なんか面白そうだなあ、こんだけアナーキーなこと描いてる人らがいるんだもんなあ……なんて思っちゃった。それが最終学年の年末。
んで、とりあえず漫画を出していて、求人票を出していない出版社に電話しよう(講談社、小学館系はもちろん毎年求人していた)と思い、電話帳で調べたら一番最初に載っていたのが“秋田書店”。いきなり電話したら、翌週に来なさいと言われた。
おおマジかいやと履歴書を書いて、いそいそと尋ねてみると、応接間のソファーに2人のオトッツァンが座っていた。その内の一人が、どーもタダモンではないオーラを放っていたんだわ。
身長は180センチ、白髪でオールバック、三つ揃えのスーツをバシッと着込んで、痩身で目は大きく、まるで『ラストエンペラー』のピーター・オトゥールみてえだった。
そう、後に俺の師匠となる壁村耐三さんである。
そして面接は始まった……待て、次回!!
(次回は6月15日掲載予定です)
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June 08, 2020 at 10:00AM
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