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Sunday, October 11, 2020

漫画でろう者の日常、31年 4コマ「たつの家」の作者 - 朝日新聞社

 4コマ漫画で月1回、耳が聞こえない人の日常を笑いで描いて31年になる。岡山県聴覚障害者福祉協会の機関紙「ろうあ岡山」に載ったこれまでの漫画を集め、2冊目の作品集をこのほど出した。自身、生まれた時から耳が聞こえない。漫画は独学で身につけた。「障害があっても普通に明るく生きている仲間がたくさんいることを伝えたい」

 タイトルは「たつの家」。聾(ろう)という字を分解すると「龍」と「耳」になる。だから「たつ」は、聴覚障害のシンボルになっている。「たつの家」は、聾の夫婦を中心とした一家の物語だ。

 35年前、結婚と同時に、夫の雅夫さん(61)と岡山市東区に理容店を開いた。

 夫も耳が聞こえず、客には案内板などで伝える。サービスと値段は、客が指さして選べるようにイラストにして店に貼った。「目を引き、宣伝になったらいいなと」。開店直後で暇もあり、イラストには力を入れた。

 すると、店を訪れた福祉協会機関紙の担当者が目を留めた。「これ、あなたが描いたの? 機関紙に4コマ漫画を描かない?」と誘われた。

 小学生の頃から漫画は大好き。父が初めて買ってくれたコミック本「ど根性ガエル」(吉沢やすみ作)は、毎日、朝晩読んで、本は手擦れで真っ黒になった。

 でも、自分で描いたのは、幼い頃のお遊びだけ。「私でいいのかな……」と不安だったが、「ダメなら途中でやめていいよ」という担当者の言葉に後押しされ、1989年3月に連載を始めた。

 時事の出来事にネタを探す。今は新型コロナの話題が多い。ろう者ならどうするか、結びつくよう起承転結を考える。手話が母語で日本語を読むのが苦手な人にも笑ってもらえるようセリフは分かりやすく、表情や動きで理解できるよう心がける。

 苦労したのは、擬声語や擬音語だ。犬は「ワンワン」とほえ、雨は「ザーザー」と降るというのが、聞こえない自分には分からない。聞こえる友人に教えてもらい、既存の漫画も山ほど読んで、広く使われている表現を学んだ。

 「漫画が好きで、そういう表現を見慣れているろう者は多い。自分の作品が、聞こえる人の漫画表現とずれないように努力しました」

 珍しい経験もした。2018年の西日本豪雨で店が水没。その5年前に自宅が豪雨で水没するネタを描いていた。「まるで予言。不思議すぎて、自分でもびっくりした」

 被災のショックは大きく、店の再建も大変だったが、その間も連載は休まなかった。開始から31年経ち、理容の仕事に加え当事者団体の役員、手話の講師など多忙に。描く線もキレが失われたように感じる。「もうやめようか」と何度も思った。でも、作品を待つ読者の言葉が力をくれる。

 「描けなくなるまで描くんじゃないかな」。世相とろう者の意識の変遷を、笑いとともに紙面に刻み続ける。(中村通子)

     ◇

 さかぐち・たまき 1962年、赤磐市生まれ。県立岡山聾学校高等部で理容技術を学び、住み込み修業などを重ね、独立。夫の雅夫さんは、聾学校小学部からの幼なじみ。作品集は、パート1が500円、パート2が700円、2冊セット1100円。購入は県聴覚障害者福祉協会(086・224・2275、ファクス086・224・2270)。

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October 11, 2020 at 08:00AM
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