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Sunday, February 21, 2021

10年ぶりの首位攻防ダービー!ミラノ勢復権は欧州サッカー界の環境変化の象徴だ - Goal.com

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【欧州・海外サッカー コラム】10年ぶりにセリエA首位の座をかけて行われるミラノダービー。ミラン、インテルの転落と復権は、欧州サッカーそのものが被ってきた大きな環境変化を象徴するものである。イタリア在住ジャーナリスト片野道郎氏が、今に至る経緯と見どころを分析する。

■10年ぶりの首位攻防戦

「春のミラノダービー」が目前まで迫ってきた。北イタリアの2月半ばは「春」というにはまだ早いが、1シーズンに2回巡ってくるこのビッグマッチが、都市ミラノはもちろん、イタリアサッカー全体にとってひとつの風物詩であることに変わりはない。
 
ミラノは世界中で今のところただひとつ、複数のチャンピオンズリーグ優勝クラブを擁するフットボール都市である。この点ではマドリードもマンチェスターも、そしてロンドンも敵わない。とはいえ近年はその2クラブ、すなわちACミランとインテルナツィオナーレFCのいずれもが欧州サッカーの表舞台であるCLから久しく遠ざかり、その輝かしい歴史と伝統には見合わない停滞期を過ごしてきた。

なにしろミランが最後にCLを戦ったのは今から7年前の13-14シーズン、インテルに至っては9年前の11-12シーズンだったのだ。これはつまり、セリエAの舞台においてもミラノ勢が主役の座から滑り落ちていたことを意味する。両チームにとって永遠のライバルともいえるユヴェントスが9連覇という圧倒的な強さを発揮して頂点に君臨している間、ミランとインテルはCL出場権を保証してくれるトップ4に入ることすらできずに過ごしてきた。

しかし、今シーズンは話が違う。第22節まで消化した現時点で、インテルとミランがわずか1ポイント差で激烈な首位争いを展開しているのだ。ミラノ勢がセリエA順位表の1位と2位を占め、スクデット(=盾:セリエA優勝チームだけが胸につけることを許される、イタリア国旗をあしらった盾形のワッペン)争いの主役としてミラノダービーを迎えるのは、何と10年ぶりのこと。間違いなくすべての欧州サッカーファンにとって注目の一戦である。

最後にそれが起こったのは2010-11シーズン、正確には2011年4月2日。マッシミリアーノ・アッレーグリ監督が率いるミランは、ズラタン・イブラヒモヴィッチやケヴィン・プリンス・ボアテングが大活躍し、シーズンを通して首位の座をキープしていた。インテルはジョゼ・モウリーニョの下で「トリプレッタ」(CL、スクデット、コッパ・イタリアの三冠)を達成した翌年で、シーズン途中に監督がラファ・ベニテスからレオナルドに替わるなど、それまで4連覇してきた黄金時代に陰りが見え始めたタイミング。冬の移籍マーケットでチェゼーナから加入した長友祐都にとって初めてのミラノダービーでもあった。

この時、首位ミランと2位インテルの勝ち点差はわずか2。もしインテルが勝てば逆転首位、ミランが勝てばライバルを蹴落として首位固めというきわめて緊迫した状況で迎えた試合だったが、結果はアレシャンドレ・パトの2ゴールなどでミランが3-0の完勝。その勢いに乗ったまま残り試合を無敗で駆け抜け、7年ぶり通算18回目のスクデットを勝ち取ることになる。

ミランにとってこのスクデットは、現時点における最後のタイトルだ。そしてインテルもこの前年にやはり通算18回目となるスクデットをモウリーニョと勝ち取って以来、リーグ優勝からは遠ざかっている。すでに見た通り、セリエAの覇権はこの翌年(11-12シーズン)から、ミラノを離れて西に130km行ったトリノに移ることになった。

■“パトロン型”経営の限界

GFX Silvio Berlusconi Moratti

それから10年の時を経て、セリエAの主役の座に返り咲いたミランとインテルだが、そのクラブとしてのありようは、10年前とは大きく異なっている。両クラブがこの間経験しなければならなかった停滞と低迷、そしてそこからの復活プロセスは、イタリア、ひいては欧州サッカーそのものが被ってきた大きな環境変化を象徴するものだ。

この変化を最も分かりやすく表しているのは、両クラブのオーナーシップだ。10年前にミランを保有していたのは、イタリア有数のメディア企業のオーナーであり政治家としては4度にわたって首相を務めたシルヴィオ・ベルルスコーニ。インテルのオーナーは、イタリア有数の石油精製企業の御曹司であるマッシモ・モラッティ。いずれも地元ミラノを代表する大富豪であり、同時にクラブの熱烈なサポーターとして私財を投じてスクデット、そしてCL制覇の夢を見続ける典型的な“パトロン型”オーナーだった。

しかし、2010年代に入って欧州サッカー界で「資本と市場のグローバル化」が急速に進み、CLで頂点を巡って戦うメガクラブのビジネス規模が一気に拡大。それに伴ってチーム強化に必要な移籍金と年俸の水準が急上昇すると、ミランやインテルの経営コストも「地元の大富豪が私財を抛って愛するクラブにタイトルをもたらす」という“パトロン型”経営の美談が通用しないレベルにまで膨れ上がっていった。

同時に本業のビジネスも時代の変化にさらされ斜陽化したこともあって、モラッティもベルルスコーニも経営コストを支えきれなくなり赤字体質が慢性化、縮小均衡策に転じて経営を立て直しつつ、クラブを手放す道を探り始めることになる。

ベルルスコーニは2012年夏、チームの大黒柱だったイブラヒモヴィッチとチアゴ・シウバをPSGに売却し、その莫大な売却益を赤字の補填に回すという形でどうにか目先の経営を立て直したが、その後はチーム補強にほとんどコストをかけられず、毎年のように監督の首をすげ替えるなど迷走を続ける。セリエAの成績も、12-13の3位を最後に8位、10位、7位、6位と低迷。2017年春にはついに、素性すら確かではない中国人投資家ヨンホン・リーに経営権を売却して、30年以上に渡るオーナーシップに終止符を打った。

モラッティも、モウリーニョを擁して勝ち取った「トリプレッタ」以降は、段階的なリストラに路線転換。2013年秋にインドネシア人投資家エリック・トヒルにクラブを売却して舞台を去った。しかしそのトヒルも経営を成長軌道に乗せることができず、わずか3年後の2016年夏、中国最大の小売業者である家電販売店チェーン「蘇寧電器グループ」に経営権を譲渡している。

今から4年前、2017年4月15日に行われたダービーは、ミランがヨンホン・リー、インテルが蘇寧グループと、2つの名門クラブが共に中国資本傘下に入って行われた初めての“中華ミラノダービー”だった。しかし、この勢力地図が続いたのは、ほんの1年あまりでしかない。ヨンホン・リーが買収のために借り入れた資金4億ユーロあまりを返済するメドが立たず、2018年夏に債権者であるアメリカの投資ファンド「エリオット・マネジメント」に、クラブの経営権を「借金のカタ」として取り上げられる事態になったからだ。

こうして現時点では、インテルは蘇寧グループ、ミランはエリオットと、いずれもイタリアどころかEUですらない外国の資本がクラブを保有し、経営するという体制になっている。外国資本による経営権取得、つまりオーナーシップのグローバル化は、イタリアに限らず欧州サッカー全体における近年の大きなトレンドである。

セリエAでは、インテル、ミランに加えて、ローマ、フィオレンティーナ、パルマ、スペツィアがアメリカ資本、ボローニャがカナダ資本の傘下に入っている。プレミアリーグも、いわゆる「ビッグ6」のうちオーナーが国内資本なのはトッテナムただひとつ。マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール、アーセナルはアメリカ、マンチェスター・シティはアブダビ、チェルシーはロシア資本傘下だ。リーグ全体で見ても過半数が外国資本。他の国々でも、資本の過半数をドイツ国内の株主が保有することを義務づけた「50+1ルール」を持つブンデスリーガを例外として、外国資本の進出が急速に進んでいる。

■ミラノ勢復権の理由

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ミランとインテルは、そうしたグローバル資本によるクラブ経営という近年のトレンドを見る上で、非常に興味深いテストケースだ。どちらのクラブも、かつての“パトロン型”経営が行き詰まって低迷したところから、新オーナーによる「ビジネスの論理」に根ざした合理的な経営によって、財務体質の改善とピッチ上のパフォーマンス向上という両輪を回すことに成功してきたからだ。

蘇寧グループは、欧州サッカー界の事情に疎かった買収直後こそ、監督人事(フランク・デ・ブール)も補強(ジョアン・マリオ、ガビゴールなど)もエージェントの言いなりになって失敗するなど、もたつきが目立った。しかし2018年秋にユヴェントスの黄金時代を築いた経営幹部ジュゼッペ・マロッタをCEO(最高経営責任者)に迎えて以降は、UEFAの「ファイナンシャルフェアプレー(FFP)」規程に抵触しないよう経営の健全化を進めつつ、チームの戦力も着実な積み上げで強化してきた。

17-18シーズンにセリエA4位となってCLの舞台に復帰を果たすと、その後の2シーズンも4位、2位と着実にステップアップ。2010年代前半にマロッタと共にユヴェントス黄金時代の礎を築いたアントニオ・コンテを監督に迎え、2年目の今シーズンはポゼッション志向を強めたスタイルを模索した序盤戦こそもたついたものの、ベルギー代表の大型ストライカー、ロメル・ルカクの圧倒的な体格とパワーを最大限に活かすダイレクトなスタイルに舵を切った11月以降は安定した強さを発揮、首位を走るミランをしっかりマークして2位の座を保ってきた。

一方、「借金のカタ」という意外な経緯でミランの経営権を手に入れたエリオットは、アーセナルからスカウトした経営幹部イヴァン・ガジディスを2018年末にCEOとして送り込み、チームの陣容を若手主体に転換しての人件費削減などでFFPをクリアできるレベルまで収支を改善。数年がかりで経営とチームの再構築を図るという思い切った戦略を打ち出した。

こちらも昨シーズンはマルコ・ジャンパオロ監督を中心に据えたプロジェクトが早々に頓挫、後任に迎えたステーファノ・ピオリ監督の下でもなかなか成績が上向かないなど、突然のコロナウイルス禍によってリーグ戦が中断される3月までは迷走が続いた。それを見たガジディスCEOが、水面下でラルフ・ラングニックの招聘による強化・チーム部門の全面刷新を目論むという動きもあった(その経緯については当時寄稿したこの記事をご参照いただきたい)。

ところがコロナ禍による中断が明けた昨シーズンの終盤戦、ミランは1月の移籍マーケットで10年ぶりに復帰した当時38歳のイブラヒモヴィッチを中心に、再開後の12試合を9勝3分無敗で駆け抜ける大躍進。その結果、一度は内定したラングニック招へいは土壇場で棚上げとなり、ピオリ体制が継続する運びとなった。そして迎えた今シーズンは、開幕から誰の予想をも裏切る快進撃を見せ、前半戦を通して一度も首位の座を譲ることなく「冬のチャンピオン」(前半戦王者)に輝いた。

■10年ぶりに帰って来た“意味”

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こうして迎えたセリエA後半戦は、昨シーズンまで9連覇という圧倒的な強さを見せてきた王者ユヴェントスが、新監督アンドレア・ピルロの下で取りこぼしを重ねていることもあり、ミランとインテルが抜け出してマッチレースで優勝を争うという展開になってきている。そしてちょうど前節、インテルが強敵ラツィオを3-1と圧倒したのに対し、ミランは下位のスペツィアに0-2の完敗を喫して、ついに今シーズン初めて首位が逆転。インテルが1ポイントリードする状況でこのミラノダービーを迎えることになった。

冒頭で触れた通り、ミラノダービーが首位攻防戦となるのは10-11シーズン以来10年ぶり。シーズンをまだ3分の1以上残している現時点において、このダービーの結果が優勝争いを直接的に左右するということはないだろう。しかしこのところ、都市ミラノの覇権争いというローカルな意味合い以上の重要性を帯びることができなかったこの対決が、セリエA全体のシーズンの行方を左右するビッグマッチになったという事実だけで、ここイタリアは大きな盛り上がりを見せている。ミラノに本拠を置くイタリア最大のスポーツ紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』も、連日CLすらそっちのけでカウントダウン企画に紙面を割いているほどだ。

実際、単なる首位攻防戦というだけでなく、見どころは少なくない。イブラヒモヴィッチvsルカクという、リーグ得点王争いでも熾烈な戦いを繰り広げている絶対的なエースストライカー対決。片やテオ・ヘルナンデス、サンドロ・トナーリ、ラファエル・レオン、片やアクラフ・ハキミ、ニコロ・バレッラ、ラウタロ・マルティネスという、両チームが誇る若きワールドクラス予備軍たちの躍動。ハカン・チャルハノールvsクリスティアン・エリクセンという名手によるフリーキックの競演――。

これだけ見ごたえのある役者が顔を揃えたミラノダービー自体、近年にはなかったことと言っていい。それもエリオット、蘇寧グループという新しいオーナーが、時代の流れを捉えた的確な経営戦略によって、ピッチ上とピッチ外の両面におけるクラブの刷新と建て直しを進めてきている、その果実と言っていいだろう。

どんな結果に終わるとしても、このミラノダービーはミランとインテルの双方にとってシーズンの行方を大きく左右する分岐点であると同時に、名門復活への道のりにおける重要な一里塚となるだろう。キックオフは日本時間で21日夜11時。イタリアサッカーファンはもちろん、普段はセリエAを見る機会の少ない方々にとっても、多少夜更かししても見届ける価値のある熱戦が期待できる。

文=片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト)

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