またも決勝トーナメントで大敗
昨季のチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝でバイエルン・ミュンヘンに2-8と大敗し、歴史に泥を塗ってしまったバルセロナ。その「汚れ」を拭うのは同じ舞台で、という思いはクラブや選手にもあったはずだが、残念ながらそれを完全に拭き取ることはできなかった。反対に、さらに汚れを増やすことになった。
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ホームに昨季のCLファイナリストであるパリ・サンジェルマン(PSG)を迎えたバルセロナは、立ち上がりから相手に押し込まれている。しかし、長期離脱から復帰後即先発入りしたジェラール・ピケを中心に守備陣が何とか耐えると、27分にPKを奪取。これをリオネル・メッシが沈め先制に成功している。
ただ、リードこそ奪えたバルセロナだが、ほとんどの時間帯で攻め手を欠いていたことは否めない。PK奪取も少しラッキーな形だった。
PSGは4-5-1システムでスタートしたが、守備時はトップ下のマルコ・ヴェラッティが中盤底のレアンドロ・パレデスの左脇に落ちる4-3-3のような形で対応。最終ラインと中盤の距離感も非常にコンパクトで、前から積極的に奪いに行くことはなかったが中央エリアは堅く、隙もなかなか見られなかった。
そのPSGを前に、バルセロナはショートパス主体で前進することが困難に。メッシもペドリも中央で何度も潰されている。PK奪取のキッカケとなったのも、相手のブロックを回避しての1本のロングボールだった。
こうしてリズムを掴めぬまま時間を進めてしまったバルセロナは前半のうちにキリアン・ムバッペに同点弾を決められると、その後も猛攻を浴びる。そして後半に入り防波堤は崩れ、一気に3点を失った。攻撃陣はとくに後半、カウンターやセットプレーからシュートを放つも追加点は奪えず。選手交代も不発だった。そのままカンプ・ノウでの第1戦は1-4で終了している。
バルセロナがCL決勝トーナメントにおいて3点差以上で敗れるのはこれで5シーズン連続。2016/17シーズンはPSG(0-4)とユベントス(0-3)に、2017/18シーズンはローマ(0-3)に、2018/19シーズンはリバプール(0-4)、そして昨季はバイエルン(2-8)に大敗している。どこまで醜態をさらせば気が済むのだろうか。
右サイドバックの人選は的確だったのか
バルセロナの守備が崩壊した理由の一つに、やはりムバッペの存在があった。10代から別格の輝きを放ってきた背番号7はもはや無双しており、1回ボールを受ければ必ずと言っていいほど非凡な加速力と技術を駆使して深みを作る。事実、この日のドリブル成功数は驚異の9回にも上っている。
そして敵陣深くにおいての仕事ぶりは言わずもがな。ペナルティーエリア内の落ち着きぶりは卓越しており、シュートセンスも抜群。最終的にはカンプ・ノウでハットトリックと、バルセロナ守備陣を一人で無力化してしまった。
ハットトリックの活躍は予想外だったが、ムバッペがPSGのキーマンであることは重々承知していた。それはもちろんバルセロナも同じ。ロナルド・クーマン監督が対策を講じていなかったわけではない。しかし、結果論になるかもしれないが、若きスターへの対応が正しかったかどうかは疑問である。
セルジ・ロベルトが負傷離脱していたので、クーマン監督はセルジーニョ・デストを右サイドバックに起用している。昨年夏にアヤックスからやって来た若きDFはダニエウ・アウベスを彷彿とさせるほどの突破力と技術を兼ね備える選手。守備だけでなく、攻撃面での存在感も期待された。
しかし、デストに課されたミッションはムバッペのマーク。つまり、攻撃にそれほど加担するわけではなく、守備専門のような起用となっていたのだ。そのため、デストの持ち味はすべて沈黙。一列前のウスマンヌ・デンベレが孤立し、単独での打開を求められるシーンが目立ってしまった。
そして守備力においては発展途上にあるデストは、ムバッペに決定的な仕事を多く与えてしまった。デンベレの戻りが遅く、レーバン・クルザワとムバッペの両者に対応しなければならない場面もあるなど、まさに重労働。単純な1対1でムバッペのような圧倒的スキルを持つ選手を止めることは、デストには難しかった。
攻撃力のあるデストを使うならば、多少のリスクはあっても高い位置に張らせ、ムバッペのマークを引き付けることで彼のプレー開始場所をより低くするということもできたはず。しかし、その持ち味を消し、決して得意とは言えない守備に専念させる。この日に関してはデストを右SBで起用する意味はあまりなかった。
ムバッペへの守備強度を高めるならば、スピード不足は否めないもののオスカル・ミンゲサをスタートから送り出しても良かったはず。結果論にはなってしまうが、クーマン監督の選手起用は的確だったとは言い難い。
捕まえられなかったヴェラッティ
ハットトリックしたムバッペはもちろんのこと、バルセロナにとっては何とかこの試合に間に合ったマルコ・ヴェラッティの存在も厄介だった。32分には華麗なワンタッチパスでムバッペの得点をアシストしており、守備でも効果的なタックルでピンチの芽を摘むなど、ほとんどの時間帯で輝きを放っている。
先述した通りこの日のPSGは4-5-1システムで、ヴェラッティはトップ下に置かれている。しかし、流れの中ではそこまでポジションを意識することはなく、パレデスの脇に落ちたりライン間を動いたりとある程度自由にプレーしていた。フリーマン的なイメージだ。
そのヴェラッティをバルセロナは捕まえることができなかった。
ヴェラッティはパレデスの左側でプレーすることが多かったのだが、バルセロナ側は誰がマークに付くのか曖昧に。デンベレはクルザワを警戒しなければならず、メッシにそのタスクは当然求めていない。フレンキー・デ・ヨングもパレデスがいることでヴェラッティに集中することはできず、セルヒオ・ブスケッツもバランスを整える中でそれほど前には出られなかった。
こうして背番号6はフリーマンとして機能した。パスセンスはやはりハイレベルで、小柄な体格をうまく使いドリブルでも剥がせる。タッチ数は途中交代ながらチーム3番目に多く、ドリブル成功数はムバッペに次ぐ2位の5回、アシスト一つを記録するなど、申し分ない出来だ。マウリシオ・ポチェッティーノ監督は「彼はゲームを読む能力に長けた選手。彼のおかげで我々は毎回攻撃的なポゼッションを保つことができ、良い状況にボールを持っていくもでき、攻撃をより良い形でスタートさせることができる」と賞賛。また、フランスメディアからは「どこにでもいた」と評価を受けている。
ヴェラッティが受けと配給役で機能したことで、ムバッペが攻撃を加速させる「出し手」ではなく必然的に「受け手」として力を出せるようになった。バルセロナとしては、彼ら二人に仕事を与えてしまったことが、今回の1-4という惨劇を招いたと言える。
(文:小澤祐作)
【了】
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