前回に続き、ラクスル株式会社で数々の事業開発に取り組んできた高城雄大役員と、新規事業のクリエーティブ・ディレクターである電通アーロン・ズー氏による対談をお届け。
アーロン氏の新著『アイデアは図で考えろ!』(クロスメディア・パブリッシング)の刊行を記念して行われた本対談では、ラクスルに次々と新しい事業が生まれる仕組みなどを通して、社内起業を実現するコツを語り合いました。
(左から)ラクスル高城氏、電通アーロン氏
ラクスルでは、なぜ次々と事業が生まれるのか
アーロン:ラクスルにも、挑戦しやすい環境や仕組みがあるんですか?
高城:いくつかありますね。まずは「プロジェクト制度」という、誰でもやりたい事業を起案できる制度があります。
事業が走り出す時に予算を出して、そこからは四半期単位でレビューの場を設けているものの、基本的には事業オーナーに完全に任せるというスタンスで進めています。コミットしたマイルストーンを達成したら、また予算を追加し、達成しないプロジェクトはその時点で閉じられます。
また、新規事業についてはインキュベーション部門という“箱”を作って、そこをコア事業から独立させています。
その時に、既存事業とのシナジーはそれほど強く意識させないようにしています。シナジーは大切ではあるものの、それを求めすぎると縄張り争いやリソースの取り合いが起きたりと、経験上そういった揉めごとは絶対に起こってしまうんです。そこで、コミュニケーションや予算を分けて、走り出すための出島を作るようにしています。
出島に対して経営陣がスポンサーをするというのも、社内における新規事業をやる上では絶対に必要な条件だと思います。逆に社内でいろいろ相談し合ってもあまり良い意見が出てこないですね。
アーロン:高城さんが言う通り、社内での相談はそこまで必要ないと思います。なぜなら、業界のあり方を変えるような革新的なアイデアの良し悪しを判断すること自体が非常に難しいからです。
例えば、Airbnb(エアビーアンドビー)という空き部屋を貸したいホストと部屋を借りたいゲストをつなぐ民泊仲介サービスは、ホテルに勤める人が上司にAirbnbのような事業を提案したら、「お前はホテル業界を潰す気か」と言われてしまうかもしれません。結果論ですが、マーケットの強力な二大巨頭になるチャンスが潰されてしまうのです。過剰な相談や話し合いは、新規事業に必要ないことなんです。
ラクスルが素晴らしいのは、業界構造そのものを変えるような事業を作ろうとしているところです。これはもう、絶対に成長する会社になると思います。
高城:われわれのカンパニーでは、社長や役員ではなく、新規事業のオーナーが言っていることが「正しい」というのが前提なんです。
もちろん、マイルストーンの継続判断は経営者が行いますが、事業の中の意思決定・マーケティング戦略・プロダクト開発などは全て新規事業のオーナーに任せています。オーナーが業界やお客さまに一番向き合っているので、そのリスペクトを体現するように会議や決裁の仕組みをつくることが大事なのです。
企業は大きくなっていくにつれて、そういったところを疎かにしてしまいます。上司や役員の許可が降りないと、さまざまなことが進まなくなるのです。しかし、上司や役員が現場に詳しいわけではないですよね。
アーロン:大きい企業ほど、カニバリゼーションを意識して、保守的な経営判断になりがちです。でも、一見狂っているように見えるアイデアって、少なくとも保守的ではないですよね。
本当に狂っているアイデアなのか、一見狂って見えるけど良いアイデアなのか、その判断はすごく難しいので、新規事業はある程度野放しにしておくのが一番良いと思います。
最終的には、うまく利益を出せればいいという話になります。損益分岐点をちゃんと超えればいい。でも、それは結局のところやってみないと分からないんです。
高城:新規事業を追い詰められて始めるケースが多いのも良くないですよね。絶対に成功しないといけない状況で、新規事業をやろうとしてしまうんです。そうなると新規事業の打率なんて3割程度のはずなのに、10割の成功を目指した意思決定や事業運営をしてしまいます。だから、追い詰められるもっと手前のタイミング、一番儲かっているタイミングで始めるべきです。
新規事業によって、自分たちはどのように成長したか
高城:新規事業を始めて、自分の中で変わったなと思うことが大きく2つあります。
1つ目は、自分の行動で社会が変わったことが目に見えたことです。
近所の商店街を歩いていると、ラクスルで作ったチラシなどを目にするようになりました。チラシやポスター、のぼりなどを目にすると、自分の動きによってお店が変わっていくのが、実感できるんです。
多くのお店がラクスルの製品を使っているのを見ると、この7年で社会がここまで変わるのかと驚きます。そして、単純に給料をもらってタスクをこなしているのではなく、意義があることに自分が携われていると感じるのは、自分にとって非常に大きなリターンだと思っています。
もう一つは、「トレードオン」(トレードオフの二項対立を超える価値を生み出し、双方を両立させること)の考え方が身に付いたことです。
新規事業をやっていると、二者択一の選択に迫られる機会が多くなあります。お金を使ってマーケティングをするのか、人を雇うべきか。いまマーケティングにアクセルを踏むべきか、サプライチェーンを頑張るべきか。このようなことに悩むことも多かったのですが、事業が大きくなっていく過程においては、3〜5年先には両方を実現しなければなりません。時間軸を伸ばしたら、全ての物事はトレードオンするのです。
普段生活している中でも、選択をしなければいけないことは多くあるのですが、長い軸で見たらトレードオンするのだなといった価値観が持てるようになりました。この考え方は人生を豊かにしてくれています。焦ることはあるのですが、焦りに対しての切迫感や自分に与えるストレスも減ったと感じています。
いずれ時間軸を伸ばしていけば、全部自分のやりたいことができるので、全ての意思決定は0か1じゃないという、大局観を得られました。
アーロン:そうなんですよね。新規事業を始める、何かが目に見える形で残る、モチベーションが上がる。クリエイティビティを継続的に発揮するための条件に、この種のモチベーションは絶対に必要だと思います。そしてもう一つ必要なのが、根回し力。
根回しは、できる人は自分でやればいいですし、できない人は会社の重鎮に頼むのがおすすめです。彼らが一番社内の事業を分かっていますから。
「根回しおじさんとチャラ男が新規事業を成功させやすい」と、ある経営学の教授が言っていたのですが、その通りだと思います。いろんなことに挑戦してモチベーションを持って動き回る若手と、ちゃんと根回しして若手のチャレンジをサポートできるベテラン。この2つの条件が揃えば、クリエイティビティは発揮できるのです。
高城:モチベーションの話をすると、私は事業オーナーをアサインするときに、「高エネルギー生命体」をアサインするって決めています。
人から与えられて頑張れるタイプの人と、内発的にセルフモチベートできるタイプの人がいて、新規事業はセルフモチベートできる人がやるべきだと思います。
なぜなら、事業は自分で作るもので、外から与えられるものではないからです。新規事業をやっていると、迷うことやストレスがかかるような苦しいことがたくさんあります。そういった時に、いま目の前にある事象は自分の取った選択の結果だと思える人には絶対適性がある。
なので、新規事業の一番の理想的なオーナーは、太陽のように自分で燃えている人です。会社に言われて動く人は絶対に失敗するので、これはかなり大切です。
アーロン:電通には「THE 8 WAYS」という8つの行動指針があるんですが、社内で「アーロンさんはどれが一番好きですか?」と聞かれた時に、私が選んだのは「WE ALL LEAD(リーダーという職階はない。アイデアを出した人が、やり遂げた人が、リーダーと呼ばれる。)」という指針です。
以前、大先輩から「クリエーティブ・ディレクター(CD)とは、職階ではなく職務である」というお言葉を頂いたことがあります。つまり、年齢や階級にかかわらず、プロジェクトをリードする力があれば、それはCDだということ。
私の仕事は企業や組織のトップと会話を重ねながら、クリエイティブ設計に基づいた事業の拡張をする機会が非常に多くあります。その中で、成長する組織に共通することは、まずは能力以上の職務であってもそのメンバーを信じてあげることです。それがモチベーション維持にも、組織力の最大化にもつながります。リーダーという職務が、その人自身を育てるのです。
「高エネルギー生命体」という「WE ALL LEAD」に沿っている人、私も大好きですね。
知ったかぶりでもいいから、まず挑戦してみよう
アーロン:新規事業など新しいことに挑戦する時、「知ったかぶり」になるのを嫌がる人もいます。けれど、みんな最初は「知ったかぶり」から始まると思うんです。スタートアップの経営者だって「知ったかぶり」から始まって、大成する人がたくさんいます。
だから、知ったかぶりを気にして挑戦しないのは本当にもったいないなと思います。たとえその分野の本を3冊しか読んだことがなくても、確固たる思いがあるならば恐れずにチャレンジしてほしいです。
高城:そのスタンスを取ることは大事ですよね。最初にスタンスを決めてしまえば、後はそのスタンスを正解にするために努力するしかないので。
アーロン:一度スタンスを取ったら、正解しないと肩身狭くなるから、一生懸命成績を残すしかないわけです。
どこかの国では「大成するか、お化けになるか」という言葉があります。要は成功するか、権力者に嫌われて処分されるかという恐ろしい意味なんですが、日本は失敗してもせいぜい「大成するか、凡人になるか」だけの話なので、チャレンジするべきだと思います。
高城:同感です。三振したって、打席に立ち続けている限り、何度もバット振れますもんね。
アーロン:その通りですね。会社でくすぶっているビジネスパーソンに「下剋上を叩きつけろ!」と伝えたいです(笑)。
今回執筆した「アイデアは図で考えろ!」も、受動的に働いてしまっている方々が、能動的に働けるように変わるきっかけになってほしい、という思いで書きました。どんな仕事でも受動的から能動的に変えることはできます。
今回の記事を読んで、新事業を立ち上げるように動き出そうと思った方は、ぜひ「アイデアは図で考えろ!」を読んでみてください。
本日はありがとうございました。
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