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Thursday, August 25, 2022

【山口周・特別講義】「人生100年時代のヒント」アインシュタインが実践!驚きのキャリア戦略 - ダイヤモンド・オンライン

コロナ禍で働き方や生き方を見直す人が増えている。企業も戦略の変更やアップデートが求められる中、コロナ前に発売され「アフターコロナ」の価値転換を予言した本として話題になっているのが、山口周氏の『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
本書を読んだ人から「モヤモヤが晴れた!」「今何が起きているかよくわかった!」「生きる指針になった!」という声が続々集まり、私たちがこの先進むべき方向を指し示す「希望の書」として再び注目を集めている。
そこで本記事では、本書より一部を抜粋・再構成し、人生100年時代のキャリア戦略のヒントをご紹介する。

【山口周・特別講義】<br />「人生100年時代のヒント」アインシュタインが実践!驚きのキャリア戦略Photo: Adobe Stock

寿命100年時代と事業の短命化

 今日、先進国での平均寿命は長期的な伸長傾向にあり、おそらくは近い将来に「寿命100年」という時代がやってくることになります。

 ロンドン大学のリンダ・グラットンによる『ライフ・シフト』の共著者である経済学者のアンドリュー・スコットは、寿命100年の時代になれば、引退後の蓄えをつくるために、ほとんどの人が80歳まで働かなければならなくなると指摘しています。

山口周山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ニュータイプの時代』『ビジネスの未来』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

 一方で、各種の統計・データが示すところによれば、事業は長期的な短命化の傾向にあります。たとえばアメリカにおけるS&P500の構成企業の平均寿命は、1960年代には約60年だったのが、今日では20年足らずしかありません。

 以上より導かれる結論は明白です。つまり、多くの人は、人生の途上において複数回のキャリアチェンジを余儀なくされる、ということです。

 私たちは一般に「この道一筋」とか「一所懸命」といったことを無批判に礼賛する強い傾向がありますが、変化の速い世界においてそのような価値観に頑なに囚われるオールドタイプは、リスクに対して非常に脆弱なキャリアを歩むことになります。

 一方でこれまで長いこと、「腰が据わらない」「節操がない」「一貫性がない」と批判的に揶揄されてきたような生き方、つまり、何が本業なのかはっきりしないままに複数の仕事に関わり、節目ごとに仕事のポートフォリオを大きく組み替えていくようなキャリアを志向するニュータイプこそ、リスクをむしろチャンスに変えていくような、柔軟でしたたかなキャリアを歩んでいくことになるでしょう。

キャリアの「バーベル戦略」

 これは『ブラックスワン』や『反脆弱性』といった世界的ベストセラーの著者、ナシーム・タレブが命名するところの「バーベル戦略」です。

 バーベル戦略とは、極端にリスクの異なる2つの職業を同時に持つ、という戦略のことで、タレブ自身はこの戦略を「90%会計士、10%ロックスターという生き方」というたとえで説明しています。

 え、よくわからない? 簡単にいえばアップサイドとダウンサイドでリスクに非対称性のある仕事を組み合わせるという考え方です。

 たとえばロックミュージシャンとして活動するのに別に大きな投資は必要ありません。せいぜい自費でアルバムを出すくらいで、これが別に売れなかったからといって、失われるのはアルバム制作費くらいしかありません。つまりダウンサイドのリスクは非常に小さい。

 一方で、なんらかのきっかけでアルバムが売れれば莫大な額の報酬と名声が得られることになります。つまりアップサイドのリスクは非常に大きい。これが「アップサイドとダウンサイドでリスクの非対称性がある」ということです。

 ある程度安定した職業を片方で持ちながら、どこかで大化けするアップサイドのリスクを人生に盛り込んでおく、というのがタレブのいうバーベル戦略だということです。

 ええ? そんな生き方がありうるの? と思うかもしれませんが、別に珍しい話ではありません。類いまれな業績を残した人のキャリアを振り返ってみれば、バーベル戦略の末に大成功した人はそれこそいくらでも見つけることができます。

アインシュタインは「バーベル戦略」の実践者

 典型例がアインシュタインです。あらためて言うまでもない20世紀最高の物理学者ですが、アインシュタインがノーベル賞を受賞するきっかけとなった「光量子仮説」の論文は、アインシュタインがベルンの特許庁で審査官の仕事を務めながら、余暇の時間を利用して書かれたものです。

 つまり、アインシュタインは特許庁の役人というリスクの極めて小さな仕事をしながら科学論文を書き、その論文でノーベル賞を取ったわけです。論文を書くことのダウンサイドのリスクはほとんどありません。たとえ失敗したとしても失われるのは時間とレポート用紙代くらいのものでしょう。

 しかしアップサイドは無限です。この論文がきっかけとなってアインシュタインは世界的な名声を獲得したわけですから、これは典型的なバーベル戦略の成功例と言えます。

 世界はますますVUCA、つまり曖昧で不確実で予測できなくなっています。通常、不確実性というのはネガティブなものとして忌避されがちですが、不確実性にはダウンサイドのリスクだけでなく、アップサイドのリスクもあるということを忘れてはなりません。

 つまり、人生から不確実性を追い出してしまうということは、自分の人生が、いわば「大化け」する可能性も排除してしまうということを意味します。

 一方で、一つの仕事だけをやっていれば、その仕事にダウンサイドの波がやってきた際、生活は破綻してしまうことになります。ということで、結論は「リスクのタイプが異なる複数の仕事を持つ」というのが正しい戦略だということになります。

個人のキャリアもポートフォリオで考える

 これはなにも、目新しい考え方ではなく、企業戦略の領域では「ポートフォリオ」という考え方で以前から知られていたものです。確認すれば、企業のポートフォリオでは、安定的にキャッシュを生み出す「今日の事業」を営みながら、将来的に大化けするかもしれない複数の「明日の事業」へと着手することが求められます。

 言われてみれば当たり前のことですが、これと同じことを個人のキャリアにも当てはめるということですね。

 寿命が100年に届こうかという一方で、企業の寿命はどんどん短くなっています。加えて指摘すれば、事業のライフサイクルカーブもこれまでのように「なだらかに終局を迎える」というより、まるで突然死のように唐突に終わることが増えています。

 このような時代にあって、今までのように「一意専心」とか「一所懸命」という価値観で職業選びをするのはオールドタイプの行動様式であり、極めてリスクが大きいと言わざるを得ません。

 このような時代にあってニュータイプは、リスクの異なるタイプの仕事のポートフォリオを組み、さまざまな組織と越境的に関わりながら、安定性とアップサイドのリスクを両立させるのです。

(本稿は、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』より一部を抜粋・再構成したものです)

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