ポーツマス大学の研究チームは、生物由来物質で最高強度を持つと考えられているカサガイの歯に着想を得て、非常に強度の高いバイオマテリアルの開発に成功した。研究成果は『Nature Communications』誌に2022年7月7日付で公開されている。合成樹脂に匹敵する強度や柔軟性を持ち、有害物質の発生なしに廃棄できる超強力な材料の可能性が示された。
高強度の完全合成繊維は広く用いられているが、製造工程における毒性物質の使用、リサイクルの困難さ、高価などの問題がある。一方、今回開発したバイオマテリアルは、材料の調達や製造の面で持続可能性があり、生分解性を持つという。
カサガイは、岩肌でよく見かける小さなカタツムリのような軟体動物だ。2015年に、それまで生物由来材料の中で最も強度が高いと考えられていたクモの糸よりも、カサガイの歯がはるかに高強度であることが明らかとなった。カサガイの歯は、足場となる柔軟なキチン繊維と、針鉄鋼(ゲータイト)と呼ばれる鉄を含む鉱物の微細な結晶からなる複合材料でできており、その独特な構造が高強度の理由と考えられている。
研究チームは、カサガイの歯の材料を実験室環境下で作成するために、キチンや酸化鉄を組み込むことができる新しい細胞培養プロトコルを開発した。
驚くことに、細胞は2週間で歯舌と呼ばれるカサガイの歯の組織と似たような構造に自己組織化した。このような強力な自己組織は海綿動物では知られているが、海綿動物にはカサガイや他の軟体動物に見られる複雑な組織や器官は存在しない。また研究チームは、組織サンプルから歯列を作る方法や幹細胞を含む細胞集団から個々の歯を作る方法も発見した。
さらに、カサガイの歯の再現に成功した後、甲殻類などの外骨格に含まれ水産業の産業廃棄物となるキチンをミネラル化した、0.5cm幅のバイオマテリアルを作製することにも成功した。研究チームは、この材料をスケールアップして大量生産したいと考えている。
研究チームの次の課題は、鉄を配置させる方法を見つけることで、そのためにカサガイ細胞の分泌物について調べている。関連する遺伝子が見つかれば、バクテリアや酵母を用いた大量生産も期待できる。
今回の研究は、海洋生物学、バイオインフォマティクス、材料化学などの専門家が集結した学際チームにより行われた。これらの連携がなければ、このような成果は生まれなかっただろうと、研究チームは述べている。
関連リンク
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