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Saturday, December 10, 2022

【道標 経営のヒント 356】一建築設計者としての思い 佐々山 茂 | - 観光経済新聞

 建築設計者としての転機になったのは東日本大震災です。所員と車で被災地を回り、その惨状を目にし、計画停電の旅館で節電対策として空調、照明、エレベーターなどの電気使用の実態を調査し報告書をまとめました。これを機会に国際観光施設協会でエコ・小活動に携わるようになり、震災後の4年間は環境省の「節電・CO2削減のための実践促進モデル事業」を手始めに環境省の事業を数件受託してチームを組んで全国の旅館の実態調査をし、2016年からは観光庁の「宿泊業の生産性向上推進事業」に3年間携わりました。その中でCO2排出量が家庭の10倍だとか、食に関する生産性が低いことなどを知りました。

 高度成長期の右肩上がりの時代と違って、毎年のように経営環境が変化し、災害にも対応を迫られる旅館はその存続を優先して、設備投資も直接収益に結び付くものや緊急の修繕に追われています。しかし旅館は年代を超えて持続する家業で長期的視野も欠かせません。耐震補強、脱炭素、食品ロス削減などは経営に対する圧力と考えるのでなく、耐震補強は建物の安全性と資産価値を上げる投資であり、脱炭素はエネルギー消費量を減らすことで水光熱費の削減につながり、食品ロス削減も費用削減と同時に食の生産性向上につながります。

 耐震補強補助金、事業再構築補助金、高付加価値化補助金、脱炭補助金などを利用しながら宿泊施設の基盤を整備する時期に来ています。
 エネルギーが高騰して1人当たり水光熱費が2千円掛かっていれば千円で回せる設備改善を行い、調理、配膳、食器洗浄に20人掛かっているのであれば10人でできるような食のシステムに変換するのです。そんなことが可能なのかと思われるかもしれませんが、日本の製造業が果たしてきたように改善の余地はたくさんあります。

 そして旅館は地場産業そのものです。地域の食材、工芸、職人技術、文化、人情など総合力でブランドを創り上げると強くなります。私も地場の材料と職人技でいろいろと造っていますが、建材で造ったものとは一線を画し人の心に響くものです。

 エージェント主導でなく、旅館が値決めできるような旅館の在り方を創り上げることが経営の役割と思います。お客さま第一から始めるのでなく、働く環境を良くすることで社員が良い人材に育ち、それがお客さまに対する良いサービスにつながると思います。少し遠回りかもしれませんが、経営の基盤をしっかりさせることで5年後10年後に備えたいと思います。

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