フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。雪の降る箱根で、あるきっかけから旅の計画を思いついたそうで……。
「全て意味がある 箱根」
東京に、急に春の訪れを感じる風が吹いた2月中旬。
昼過ぎに友人と待ち合わせをして、
女ふたり、箱根へ車を走らせた。
「最高のお天気だね!」
強い日差しがまぶしくて、サングラスをかけて運転していたのに、
小田原厚木道路の途中で、急に雲行きが怪しくなってきた。
突然の雨。
さっきまでの青空は、どこに行ってしまったんだろう。
辺りは一瞬にして、灰色の世界に変わった。
高速道路を降りて、箱根湯本を通り過ぎ、
スピードを落としながら、ゆっくり強羅(ごうら)まで上ってくると、
雨はみぞれに変わってきた。
急いで宿にチェックインをする。
「降る予報じゃなかったのにねぇ」
山の天気は変わりやすい。
よく言われていることなのに、うっかりしていた。
ひとまず温泉に入る。
冷えていた体がじっくり温められていった。
温泉はもちろん、自宅のお風呂や、海やプールでも、
水の中にいると、不思議と心が安らぐ。
自分の中にある必要ではないものが、外に流れ出ていくような感覚になる。
「明日の朝、もし積もっていたらどうしよう」
本当は不安だった。
でも、自然と落ち着いていった。
夕食を済ませて外に出ると、
道路には、すでにしっかり雪が積もっていた。
これはもう仕方ない。
明日の朝になっても積もっていたら、車は置いて帰ろう。
その夜、ちょうど初めてのエッセー本が出版されるタイミングだったので、
友人がお祝いをしてくれた。
「これからもたくさん旅をしようね!」
カバンにつけることで、紛失や忘れ物防止に役立つエアタグ。
色違いのおそろいで、プレゼントしてくれた。
彼女とは、フリーランスになってから出会って、
最近はよく一緒に旅をしている。
時間とお金に対する価値観が似ていて、
好奇心や体力のレベルも同じくらいなので、とにかく気が楽。
あまり計画を立てなくても、結果的にとても充実した旅になる。
この年になって、そんな友人ができたことがうれしい。
親しい仲でも、感謝の気持ちを忘れずにいなければいけないと、
彼女を見ていると、いつも思う。
ふと、部屋に置いてあるパンフレットに目をやった。
エステのメニューが書いてある。
“ヨルダンの死海の塩”
そんな文字が目に飛び込んできた。
「今年は死海で泳ぎたいな!」
「いいね、次はヨルダンに行こうか!」
こうやって旅先が決まってしまうのが私たち。
布団に寝転がりながら、遅くまで話をしていた。
翌朝窓を開けると、すっかり雪景色。
でもそのおかげで、
山の上に白く浮かび上がる「大」の字を、初めて見ることができた。
その後、もう一度ゆっくり温泉につかった。
チェックアウトをする頃には、空が晴れてきた。
周囲をフラフラ観光している間に、
道路の雪はすっかり溶けてなくなっていたので、
無事に運転して帰ってくることができた。
日々起こる全てのことに、きっと意味がある。
予定通りになってもならなくても、焦る必要はない。
何があっても面白がって、平気な顔をしていれば、
きっと行くべきところへたどり着くのだと思った。
ヨルダン旅では、どんな想定外に出合うだろうか。
その報告は、またいつか。
からの記事と詳細 ( 雪の箱根でもらった旅のヒント 宇賀なつみがつづる旅(42) - 朝日新聞デジタル )
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