【投資のヒント】グローバル企業の投資先は〈中国⇒ベトナム〉へ…「ベトナムの今後の景気動向は?」⇒「積極的な利下げが奏功し、回復傾向が続く。」(ストラテジストが解説)
アジア・トーク
※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。「アジアリサーチセンター」のレポートを基に、7月のアジア・マーケットを振り返ります。
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【“プロ”に聞く!ベトナム経済】
「ベトナムの今後の景気動向は?」
⇒積極的な利下げが奏功し、回復傾向が続く。懸念された社債償還問題は乗り越えられる見込み。
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ベトナム景気は持ち直し
●ベトナムの実質GDP成長率は4-6月期に前年同期比+4.1%と、1-3月期の同+3.3%から伸び率が拡大しました。また、7月の主要経済指標(米ドル建て輸出、鉱工業生産、小売売上高)の前年同月比はそれぞれ持ち直しています。ベトナム景気は持ち直しの動きが継続しています。
[図表1]ベトナムの主要経済指標
観光業も景気回復を後押し
●ベトナム政府がコロナ禍に伴う各種規制を撤廃して以降、ベトナムへの外国人観光客は増加しつつあります。2023年7月の外国人訪問客数は104万人と、2019年平均の約7割まで戻りました。
●ベトナム観光局の2019年の年次レポートによると、2019年のベトナムのインバウンド観光収入額は421兆ドンでした。このGDP比を計算すると、5.5%となります。観光業の回復はベトナム経済の活性化をもたらすことから、2023年後半の景気持ち直しを支援する材料になりそうです。
[図表2]ベトナムへの旅行者数
積極的な利下げが奏功
●ベトナム国家銀行(中央銀行)は3月16日に公定歩合を4.50%から3.50%引き下げたことを皮切りに、主要政策金利のリファイナンスレートを4月、5月、6月と3ヵ月連続で0.5%ポイント引き下げました(6月は公定歩合も同時に引き下げ)。利下げ幅は8月24日時点で、公定歩合、リファイナンスレートともに1.5%ポイントとなっています。年後半以降は、こうした積極的な利下げ効果や、7月実施の付加価値税の引き下げが景気を支えそうです。
●ベトナムでは昨年秋以降、大手不動産会社が不正に社債を発行していたことが明らかになり、社債の償還資金に対する不安の高まりから、社債市場や不動産市場が冷え込みました。これに対し、ベトナム政府は社債の大量償還が今年7-9月に到来することを市場と情報共有し、その対策を進めてきました。その代表的な対応策が3月5日の政令で、社債の満期について最長2年間の延期を許可したことです。こうした準備の下で、ベトナム国家銀行は積極的な利下げを行い、経済全体の調達コストを引き下げました。当局の対応により、懸念された社債償還問題は乗り越えられる見込みです。
●一方、米国の利上げ観測が続く状況では、一般的に新興国にとって為替急落の懸念から利下げの実施は難しくなります。しかし、ベトナムはインフレ抑制に成功していたことから、ベトナムドンの下落ペースが限定的になっています。
[図表3]ベトナムの政策金利
中長期的に地政学リスクに強いベトナム
●米中対立が長期化する様相を呈しているため、米国と良好な関係にある国のグローバル企業が、中国の業務を縮小したり撤退したりする事例が出始めています。米国の輸入データを見ると、これまで単独国では中国からの輸入が最大でしたが、2023年1-6月には中国からの輸入はメキシコ、カナダからの輸入を下回るようになっています。このように、グローバル企業は徐々に中国との経済関係を縮小し始めています。
●グローバル企業にとって、地政学的リスクから選択しやすい進出先がベトナムです。加えて、ベトナムは人件費が安いことも外国企業にとってプラスの材料です。海外から流入する直接投資のGDP比を見ると、ベトナム向けは2021年の4.2%から2022年には4.4%へ加速した一方、中国向けは2021年の1.9%から2022年には1.0%へ鈍化しました。ベトナムへの堅調な直接投資の流入は、資本ストックの積み上げを通じてベトナムの潜在成長率を高める方向に働くと考えられます。
[図表4]ベトナムと中国への直接投資
(2023年8月25日)
石井 康之
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフリサーチストラテジスト
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