衣服をまとう人の生き方や、芯のある姿勢が垣間見えるからこそコーディネートの魅力は輝く。3人のスタイリストが装いの手本に選んだのは唯一無二の才能を持つ、男性アーティストたち。自身のクリエーションに影響を与えた、彼らのファッションには、ヒントが詰まっている
Stylist 吉田佳世 × ビリー・チャイルディッシュの活きたワークスタイル
ジャケット¥921,800(参考価格)・ブーツ¥312,400/ロエベ ジャパン クライアントサービス(ロエベ) 中に着たシャツ¥8,910・スカーフ¥3,960/BRACKETS ジャンプスーツ¥61,600/CLIFF co.ltd.(FUMIKA_UCHIDA) 帽子¥182,050/ドーバー ストリート マーケット ギンザ(ジョン アレキサンダー スケルトン) ペンダント¥167,200(ソフィー ブハイ)・リング¥66,000(ノアーク)/エスケーパーズオンライン
ビッグシルエットのレザージャケットは、バックスキンで着るほどよくなじむ。サーマルコンビネゾンやヴィンテージのパジャマシャツを仕込めば、レザーと好相性なミックスが完成。
スタイリスト吉田佳世さんがイギリス留学中に衝撃を受けたのが、マルチアーティストのビリー・チャイルディッシュだ。
「当時ロンドンでアートやファッションを学んでいた人たちはみんな彼をリスペクトしていました。画家でありながら、ガレージバンドのボーカルとギターを担当し、さらに小説や詩も発表しています。自分が生み出すもので、みんなが楽しんでほしい!という根っからの芸術家気質な部分に心惹かれます」
吉田さんが憧れるビリーの装いには、英国独特のカルチャーが織り込まれている。
「彼のファッションはどこかにミリタリーやワークウェアの要素がある。そこに小物でジェントルマンらしさを加えているんです。ラフなサーマルやTシャツなどを身につけながら、首もとには品よくスカーフを巻く。立派な口髭をたくわえ、シガーを吸っている姿もまさにブリティッシュトラディショナル。ロンドンは特に古着文化が根づいているので、いかにお金をかけずに、おしゃれをするかというところで競うんです。だから、ワーク調の小物の選び方などで、さりげない抜け感を出すのが上手! そのスタイルを女性が真似するなら、特に変化球は必要ないと思います。彼の好みそうなアイテムを素直に女性がまとう。それだけで、こなれたムードが出ますし、潔く可愛いコーディネートになりますよね」
時代に合わせたものづくりは必要ない。長く残るのは、〝芯の強い″もの
「ビリーは1970年代から幅広いジャンルで活躍しているアーティストですが、いつの時代もスタイルが変わらない。ワークウェアやミリタリー調のヴィンテージアイテムが軸にあるから、いつ見ても古臭く感じないんです。彼自身のアートワークにも通じますが、信念があって、ブレない姿勢があるからカッコいい。そこにパワーをもらいますね」(吉田さん)。
パンツ¥79,200/POSTELEGANT
肉厚なウールのワイドパンツは粋な差し色を好んだビリーを手本に。
ブーツ¥214,500/チャーチ クライアントサービス(チャーチ)
ミリタリーライクな気分を取り入れるならレースアップブーツを。エレガントなタイプなら女性も挑戦しやすい。
シャツ¥90,200/ドーバー ストリート マーケット ギンザ(シモーン ロシャ)
パジャマシャツはオーバーサイズを選び、コートのようにまとって。
ジャケット¥326,700/マルジェラ ジャパン クライアントサービス(メゾン マルジェラ) サスペンダー¥4,950/BRACKETS
英国風のスポーツジャケットで、タフな空気を薫らせて。内にサスペンダーを組み合わせたい。
1959年イギリス、ケント州生まれ。16歳で中等学校を中退後、地元の海軍造船所で石工見習いとして働く。その傍らで何百枚ものデッサンを描き、ロンドンのセント・マーチンズに入学。中退したのちにガレージバンドを結成し、現在は150枚以上のLPを発表。そのほかにも演劇や小説、詩の創作などあらゆる方向の表現を模索している。
Stylist 清水奈緒美 × クリストファー・ニケのニッチなパリシック
ブルゾン¥660,000(予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ) ポロニット¥59,400/イズネス(ボーディ) 中に着たチェックのシャツ¥110,000(シャルべ)・タートルネックニット¥104,500/ブラミンク デニム¥29,700/オーラリー ブーツ¥313,500/ジョン ロブ ジャパン(ジョン ロブ) トートバッグ(参考色)¥9,790/L.L.Bean カスタマーサービスセンター(L.L.Bean)
ランウェイではメンズモデルが着用したブルゾン。バラクーダに中綿を配したエッセンシャルなルックスをメインに。薄手のカシミヤポロニットやフランネルシャツなど上質な素材、色や柄の自由なレイヤリング。
清水奈緒美さんが選んだのはクリストファー・ニケ。2000年初頭にパリでスタイリストからキャリアを始め、その後はモデルや作家を経て、編集者として現在も活躍中の人物だ。フランスのモード界を牽引し続けている。
「当時の雑誌や、メゾンの広告などで彼の存在を知りました。プライベートでパリに行くことが多いのですが、友人たちの会話でもニケの話題がよく出てきていましたね。パリのファッションカルチャーには欠かせない存在だと思います。今はご自身で『STUDY MAGAZINE』というパーソナルな雑誌を立ち上げて、趣味のいいスタッフたちで作っています」
B.C.B.G.(ボンシック、ボンジャンル)のスタイルを基本にしつつ、ロンドンのテイストなどを取り込んだり、その時々の空気や気分をミックスして、更新していくバランス感覚のよさに清水さんも惚れ込んでいる。
「シノワズリー調のジャケットに、L.L.Beanのトートバッグやシュプリームのキャップ、ジャン・コロナ風の80年代的なボトムスにシックな靴。時折着ているフリルシャツもしゃれています。育ちのよさを感じさせるフレンチシックに、独自の美意識が貫かれたスタイルが大好きです。以前、A.P.C.の広告で自らスタイリングをしながら、モデルで登場していました。被写体としてもすごく魅力的な方。Instagramのストーリーズでたまに自分の着こなしをアップしてくれているのを、楽しみにチェックしています。彼の真似をして思わず買ってしまったものも多いです」
グッドテイスト、時々遊び心。パリジャンの粋を取り入れるには?
「クリストファーのようにニッチでしゃれたパリの空気を表現するのは、難易度が高いですよね。細身の彼はぴったりとフィットした服を選んでいますが、女性の装いに落とし込むならビッグサイズのものを選ぶのもおすすめです」(清水さん)。
スポーティな軽やかさと、トラディショナルな小物選びは女性でも取り入れやすいポイント。一見、紙袋に見えるレザートートなど、ラグジュアリーな遊び心のあるアイテムを選べば、シックで洗練された着こなしが完成。
編集者、作家、スタイリスト。パリを拠点に活動中。カール・ラガーフェルドや、クリスチャン・ラクロワの下で働いた経験もあり、パリやニューヨークのファッションコミュニティのキーパーソン。現在は自身が編集長を務める『STUDY MAGAZINE』の編集に携わる。清水さんも彼のスタイルブック『CN by Christopher Niquet』(左上)を愛読している。
Stylist 浜田英枝 × デイヴ・ヴァニアンの"NEAT"な漆黒
コート¥322,300・ジャケット¥284,900・シャツ¥102,300・ベスト¥108, 900・スカートとして着たドレス¥262,900・ネクタイ¥38,500・ソックス¥16,500・シングルピアス¥39,600・靴¥178,200/マルジェラ ジャパン クライアントサービス(メゾン マルジェラ) バッジ(向かって左襟・上から)¥60,500・¥51,700・¥49,500(参考価格)・(向かって右襟・上から)¥55,000(参考価格)・¥60,500/八木通商(BUNNEY) グローブ・タイツ/スタイリスト私物
黒の中にさまざまな素材をミックスすると退屈しない」と浜田さんはアドバイス。PVC加工を施したキャンバスアウターの内にジャケット、ベスト、プリーツスカートを重ねて進化系スリーピースに。黒だけど重くならないように、シルバーのブーツでキャッチーに。
「私のスタイリングは、カルチャーの要素なくして成立しない」と語る浜田英枝さん。今回は1976年に結成したロンドンのパンクロックバンド「ダムド」のボーカル、デイヴ・ヴァニアンを憧れのアイコンとして挙げた。
「ダムドには、"パンク"と一言で括れない魅力があります。音楽性がクールであることは大前提として、グループ全員の装いを見ると、てんでバラバラ。初見でただものではないと思ったのが、ボーカルのデイヴ。彼のスモーキーなメイクアップに、パンクにありがちなスタッズやダメージ加工ではなく、紳士的なスリーピーススーツという知的で、色気のあるスタイルに目を奪われました。デビュー当時、まだ10代。時代に合わせて"パンク"と表現されたり、表面的に"ゴス"と分類されたりしますが、本人は昔ながらのロックンロールと、フィルム・ノワールを愛している古典派。単なる"ポーザー"ではないところも興味深いです。近影を見ても、今でもその美意識を貫き通していて、自分の目は正しかったと思いましたね」
彼のブラック一色の着こなしの中でも特に、"仕立てのいい黒の服"ははずせないポイントだと浜田さんは分析する。
「今シーズンのトレンドはフォーマルなものが多いですよね。そして、黒という色は実に奥深い。デイヴのよさは、黒い服を着ていても、どこかポップな空気もあるところですね。仕立てのよさや、スタイリングの抜け感、どこかにユーモアのあるセンスは必要なんじゃないかな」
圧倒的なカリスマ性とユーモアを掛け合わせた逸材
尊敬するアーティストのフェイバリットとして興味を持ってから、浜田さんもダムドが大好きに。デイヴの一貫した漆黒のスタイルには実はポップさも重要。「彼のナルシシズムは、唯一無二のカリスマ性とつながります。楽曲に『Neat Neat Neat』(※Neatは素敵の意)と名づけてしまうバランス感覚もおしゃれ。今となっては当たり前となった男性のメイクアップも、この頃から自然と取り入れていて。先見性がありますよね。今季トレンドであるタイの装いは、彼が着想源なのでは?と想像していました」(浜田さん)。
ジャケット¥379,500(予定価格)/セリーヌ ジャパン(セリーヌ バイ エディ・スリマン) サングラス¥129,800/アレキサンダー・マックイーン 靴¥156,200/ヴァレンティノ インフォメーションデスク(ヴァレンティノ ガラヴァーニ) ジャケットに合わせたチーフ/スタイリスト私物
デイヴが選ぶなら、ロックマインドのあるスリークな黒ジャケットを一枚。スタッズやスパングルで彩ったサングラスやシューズで華やぎをプラス。
1976年に結成されたイギリスのパンクバンド「ダムド」のボーカル。同世代のパンクバンドと比較されることも多いが、ひとつのジャンルにとどまらず、活動を続ける。ロックの文脈で語られることも多い。2018年には10年ぶりとなるアルバム『イーヴル・スピリッツ』を発表するなど、今なお現役で活動中。
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