価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。
● 偉人の名言から、斬新な示唆を得る
アイデアをひとりで考えていると、同じところをぐるぐる回ってしまうことはありませんか。そんなとき、私はよくこう考えます。
「誰か、相談に乗ってくれないかな。アイデアの壁打ち相手になってくれないかな。希望を言えば、単なる壁打ち相手ではなく、示唆に富んだ視点をくれる人だったら最高なんだけど……」
ふと時計を見ると夜も23時を過ぎている……。誰にも声はかけられないけれど、誰かとブレストをしたいな、と思うことがしばしばありました。そんな私が編み出したのが、偉人ブレストです。やり方は、とってもカンタンです。
● 「偉人の名前」+「名言」で検索
インターネットのブラウザの検索画面に「偉人の名前」+「名言」と入れるだけ。すると、名言のまとめサイトが次々出てきます。私はこれを、「ブレストの場に偉人を召喚する」と言っています。
偉人ブレストのメリットは、自分では到底思いつかないような示唆や斬新な視点が得られることです。そのため、アイデアの取り組みはじめではなく、「ある程度アイデア出しを行った後」で使うといいでしょう。
自分ひとりで考えはじめて、それなりにアイデアは出すことができた。しかし、行き詰まってきて、どうも思考が堂々巡りしてしまったというときにこそ効果を発揮します。これまでに出したアイデアをさらに広げたり、違う視点から発想のヒントを与えてくれます。
今日のテーマは、「少しさびれてしまった温泉市街地の再活性化プラン」のアイデア出しです。ひとりでアイデア出しを何度かはしてみたものの、まだ「これだ」といったアイデアには至っていない状態です。今回は、ブレークスルーするために必要な視点をいつもくれるアインシュタインさんをお呼びします。
● アインシュタインの名言
インターネットで「アインシュタイン 名言」と検索すると出てくる名言がまとめられたページを開きます。そして、列記された名言を上から読んでいくのです。この偉人ブレストをしているときの私の頭の中を覗いてみましょう。
この偉人ブレストで大事なのは、取捨選択です。すべての名言が役立つわけではありません。そこで、私がどのように取捨選択をしているのか、心の中でのつぶやきも交えて、お伝えしていきます。
【名言1】大切なのは、疑問を持ち続けることだ。神聖な好奇心を失ってはならない。
こちらは、どうでしょう。温泉市街地のブレストをしたいのにちょっとピントがずれているのでは、と思いつつも、相手は偉人です。最大限相手の言っていることを理解しようと努めてください。偉い人ほど、私にとって示唆的なことを言ってくれるのです。きっと、これも何か私を導こうとしている言葉のはず。
そもそも私は、この温泉市街地の再活性化について、どんな疑問を持っているのだろうか。観光客とは誰かというターゲットの設定について? 宿泊施設のオペレーションについて? それとも、さびれたスナックが大半を占める温泉街を昭和レトロと言い換えられないか、ということ?
いい示唆が得られそうですが……あまり長い時間をかけてひとつの名言に付き合いすぎると、時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。少しモヤモヤとしたら、どんどん次の名言に移っていきましょう。
【名言2】天才とは努力する凡才のことである。
はい、なるほど。いいお言葉ですね、個人的に受け取っておきます。次!
【名言3】私は、先のことなど考えたことがありません。すぐに来てしまうのですから。
すみません、いまの私の仕事は、先のことを考えることですので、次!
【名言4】神はいつでも公平に機会を与えてくださる。
はい、次!
【名言5】一見して馬鹿げていないアイデアは、見込みがない。
はっ! これは、ありがとうございます。そして、すみません。私、つい地域のお仕事は、自治体をはじめ関わる方も多いので「正しい」答えはなんだろうって、思いすぎていたのかもしれません。
いまのところ、出しているアイデアは正しそうな顔つきばかりしていますね。温泉市街地とは「遠そう」なものとの組み合わせから考えてみようかな。
「アイドルA × 温泉地」「カラオケスナック × インバウンド」「射的 × 温泉まんじゅう」「露天風呂 × イルミネーション」などなど。
いずれも、まだ芯は捉えていない気がするけれど、軽やかな発想になってきた気がします。さらに、次いってみましょう。
【名言6】大切なのは、自問自答し続けることである。
してます、してます。自分だけでは限界があるんで、アインシュタインさんとブレストしているんです。でも、たしかに、温泉市街地にとっての本質的な問いとか、問題解決って何なのだろう。究極的には、自分のような外部コンサルタントがいなくなっても、活性化が続いていくような状態をつくることができるってことですよね。そこに向けては、何が必要なんだろう。
【名言7】知的な馬鹿は、物事を複雑にする傾向があります。それとは反対の方向に進むためには、少しの才能と多くの勇気が必要です。
これは、難しく考えすぎるなってことですよね。あれ、そもそも自分が得意なことや好きなことでこの地域に貢献できないだろうか。たとえば、自分が得意な「アイデア教育 × 温泉」ということから、観光従事者たちがみんなアイデアを出せるようになったらどうだろうか。あれ、シンプルだけど、意外にもそういう道もあるのかも。ありがとうアインシュタインさん、気づかせてくれて。こちらでひとつ、企画書をまとめてみようかしら……。
といった形で、私の偉人ブレストは、夜な夜な続いていくのです。いかがでしょうか。ここまで偉人とブレストをしているときの私の頭の中を描写してみました。少しイメージができましたでしょうか。
大事なことは、相手の言葉に対して「とっても有り難いものだ」という前提で、自分のいま抱えている問題に対して、どんな示唆を与えてくれようとしているのか、頭をフル回転させることです。
大先生ですから、直接答えを言ってくれることなんてありません。示唆に富みすぎていて、何を言っているかわからないことも多いですが、それも自分の力不足だと思って、偉人大先生のお言葉から、どれだけ発想を広げられるかが肝になってきます。
(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)
仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。
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