まだ駆け出しの頃、撮影で出会って一目で恋に落ちた花があった。愛らしく、黄色い綿菓子のようなボンボンをたわわにつけたミモザである。
「春を呼ぶ花で、フランスやイタリアでは、ミモザが満開に咲く季節にお祭りがあるのよ。春は黄色とともにやってくるのよね」。その花を用意して下さったスタイリストさんは、そう教えてくれた。そのスタイリストさんが、憧れの方だったこともあり、ミモザはなんとも素敵な”春告花”として、20代の私には刻まれた。オジギソウの学名らしいが、ミモザという名前もキュートだ。以来、生花店がミモザの黄色で染まると、欠かさず自宅に持ち帰って飾るようにしている。
フランスでミモザ祭りが行われるのは、ニースから海岸沿いに西へ向かったところにあるモンドリューラナープル。お祭りは、毎年2月に開催される。地域一帯が黄色に染まる様子は圧巻で、ミモザは「冬の太陽」と呼ばれ、人々は春到来への期待に胸を膨らませる。以前、オーストラリアの取材で、この地のミモザがオーストラリアから来たものだと知って驚いたことがある。
イタリアで有名なのは、3月8日の「ミモザの日」だ。この日の正式名称は、女性の日。女性に感謝を伝える記念日で、女性へミモザを贈る風習がある。第2次世界大戦後初めて迎えた1946年の女性の日に、イタリアの女性連合によって提案され、広められたものだ。すみれの花にする案もあったそうだが、すみれは高価だという理由で、どんな境遇の人も手に入れやすく、いたるところに自生しているミモザに白羽の矢が立った。終戦後の明るいムードを伝えるにも、すみれより生命力あふれる鮮やかな黄色のミモザの方がぴったりだと思う。
日本でも、ミモザが並ぶのは2月半ば以降から3月である。厚手のコートからトレンチコートに切り替わる頃のイメージだ。それが、今年は1月に生花店で見つけた。たまたま通りかかった代々木の1軒。取り立てておしゃれではなく、普通の街の店。さりげなく、バケツに投げ入れられているミモザを前に足が止まった。まだ、値札もついていない状態のミモザたち。
「イタリアから今日、空輸で届いたばかりなんです。コロナのせいで、飛行機の便数が少ないから、いつもより量が少ないのが残念」とお店のスタッフは言う。早い時期のミモザを見つけた喜びを伝えると、「ありがとう。おまけね」と1本余計にサービスしてくれた。ミモザの黄色に続くお礼の言葉に、心が温かくなり、足取りまで軽くなった。
ミモザのイタリアでの花言葉は、先に紹介した風習にならって「感謝」。今年の春は、あなたもミモザで日頃の思いを伝えてみてはいかがだろう。
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