――筆者のジョアンナ・スターンはWSJパーソナルテクノロジー担当コラム二スト
手元のiPhone(アイフォーン)に「iOS 14.5」をダウンロードし、プライバシーの許可を求める「ポップアップ祭り」が開幕したら、ぜひメッセージをちゃんと読んでほしい。幸い、文章は短い上、自分の最も個人的な情報がどう利用されるのかを理解するのに不可欠だ。
こうしたポップアップでどう答えを選択するかについても、筆者からいくつかアドバイスがある。
アップルは26日、何カ月も前から予告されていた通り、「iOS 14.5」の提供を開始した。通常毎年9月にリリースされる全面的なバージョンアップほど大規模なものではないが、いくつか有用な改良が施されている。
音声アシスタント「Siri(シリ)」には新しい、より本物に近い音声が加わった。新端末の場合、バーチャルアシスタントはもう女性の声に初期設定されていない。これは筆者が以前から提唱してきたことだ。また、マスクを着用したままロックを解除できる新たな方法も導入された。マスクを着けていて、パスコードを入力せずにiPhoneのロックを解除したい場合、「Apple Watch(アップルウオッチ)」を使用して本人確認ができる。
しかし、最も重要で議論を呼ぶアップデートは、「ATT(アップ・トラッキング・トランスペアレンシー)」だ。これは、全てのアプリにユーザーの行動を追跡し、他のアプリやウェブサイトと共有することについて、許可を求めることを義務付けるプライバシー機能だ。
「われわれはユーザーに選択肢を与えたいだけだ」。アップルのソフトウエアエンジニアリング担当上級副社長を務めるクレイグ・フェデリギ氏は動画で行われた独占インタビューでこう語った。「これら端末はわれわれの生活に密接に組み込まれ、われわれが考えていることや訪れた場所、会った相手に関する多くの情報を含んでいる。ユーザーはそうした情報をコントロール可能であるべきで、その必要がある」。同氏はさらに「(情報の)乱用は気味が悪い程度のものから危険なものに至るまでさまざまだ」と述べた。
アップルの開発業者や広告主、広告収入に依存するソーシャルネットワークはそのような人道的な判断だとはみていない。彼らは長年、このような追跡やデータ売買業者との情報共有によってユーザーのデジタル習慣に関する「調書」を作成し、ユーザーごとに高度にパーソナライズされた広告を配信してきた。フェイスブックはアップルの動きに声を上げ、「小規模企業に有害」「反競争的」「偽善的」だと主張している。
フェイスブックの広告・ビジネス製品マーケティング担当バイスプレジデント、グレアム・マッド氏は「人々は影響を理解せずにオプトアウト(拒否)する」と指摘。「アップルが発する文言や説明不足な点を見れば、この拒否を促すようなポップアップによって人々がオプトアウトすることが懸念される。そうなれば、インターネットには有料コンテンツが増え、顧客に到達できる小規模企業が大幅に減るだろう」と述べた。
「一部の人がこれに抵抗していると聞いても驚かなかった。同時に、われわれはこれが正しいことだと全面的に自信を持っていた」。フェデリギ氏はこう語り、この機能の導入は遅れたが、それは反発が原因ではなく、ユーザーが追跡をオプトアウトした際にアプリ開発業者が従うよう確実にする必要があったためだと説明した。また、アップルはポップアップの明確化に努め、開発業者向けにプライバシーを尊重した広告ツールを開発しているとも述べた。
以前からプライバシーをもっとコントロールできるようにする必要があると書いてきた筆者としては、こうした選択を有り難く思う。しかし、これは適当に決められるようなものではない。誰が自分の個人情報を利用するのに値するかや、自分のフィードにどの程度ターゲット広告が表示されるようにするかを選ぶことになる。ポップアップが表示された場合、検討すべきことを以下に解説する。
選択肢1:Appにトラッキングしないように要求
これはデータに手を出してほしくない場合の選択肢だ。
これをタップすることで、システムに「IDFA(広告識別子)」を共有しないよう伝えることになる。どのiPhoneにもこの目に見えない一連の数字が割り当てられており、アプリ内またはアプリを横断してユーザーやその行動を追跡・特定するために使用されている(アンドロイドにも似たようなものがある)。
その仕組みはこうだ。例えば、広告付きの無料睡眠アプリをダウンロードしたとしよう。数時間後、フェイスブックのフィードでパジャマの広告を目にするようになる。また、睡眠アプリ内でもあなたの他の関心事に関係した広告が表示されるようになる。それは恐らく食器洗い洗剤のようなたわいないものの場合もあれば、不妊治療のような非常に個人的なものもあるだろう。
この舞台裏では、睡眠アプリとフェイスブックがIDFAを使用してあなたに関する情報をやり取りしている。大半のアプリはIDFAを使用しているため、あなたに関する情報にはダウンロードしたアプリから検索履歴、購入履歴、最近の位置情報など多くのデータがひも付けられている可能性がある。
この選択肢をタップすると、アプリはその追跡番号(今後は端末によってデフォルトで共有されなくなる)にアクセスできなくなるが、これはそのアプリに対して、こっそりトラッキングするのはやめてほしいと伝えることにもなる。メッセージが「トラッキングしない」ではなく「Appにトラッキングしないように要求」となっているのは、そのためだとフェデリギ氏は説明した。
規約を無視し、他の手段で追跡を続けたアプリはアップストアで罰せられる可能性があると同氏は述べた。「アップデートを提供できなくなったり、ストアからアプリが削除されたりする可能性もある」。つまり、ルールに従うか、そうでなければ、出て行けということだ。
この選択肢の魅力は説明するまでもない。追跡をやめさせ、ここ何年も舞台裏で起こっていた、一部の人たちが「監視資本主義」と呼ぶものを阻止することにある。
プライバシーを重視する人や単にポップアップが嫌いな人は、汎用(はんよう)的な設定でアプリに「ノー」と伝えることで、追跡を一括してオプトアウトできる。iPhoneで「設定」→「プライバシー」→「トラッキング」に移動。「Appからのトラッキング要求を許可」をオフにすれば、アプリから許可を求められなくなり、IDにアクセスされなくなる。
アプリでポップアップが表示されなければ、そのアプリはあなたのIDを持っておらず、情報を追跡したり他のアプリと共有したりしていないはずだ。フェデリギ氏によると、アップル自体のアプリではポップアップは表示されない。グーグルも、同社のiOS向けアプリの多くで今後はIDFAを使用しない方針を発表している。
選択肢2:トラッキングを許可
この選択肢をタップすると、ミッシシッピ川のごとく情報が流れていく。少なくとも、あなたの許可を得たアプリではそうだ。アプリ開発業者には、データの利用方法について説明し、トラッキングを許可する価値があるとユーザーを説得するチャンスが2度ある。
ポップアップが表示されると、「『XXX(アプリ名)』が他社のAppやWebサイトを横断してあなたのアクティビティの追跡することを許可しますか?」という質問の下にアプリ開発業者からのメッセージが小さな文字で表示される。大半は短く、「興味のある」または「パーソナライズされた」広告を表示するためにトラッキングが必要だと説明している場合が多い。それでも、それらを読むべきだ。予想外のことが書いてあるかもしれない。
もう一段踏み込んだ措置を取っているアプリもある。正式なポップアップを表示する前に、フルスクリーンで広告のメリットや個人データの利用方法を説明している場合もある。
広告業界やソーシャルメディアの企業経営者や幹部に、なぜ「許可」をタップすべきかを尋ねたところ、おおむね以下のような答えが返ってきた。
・自分に関係のある広告が表示される
多くがトラッキングの口実に、ソーシャルメディアのフィードが的外れな広告で満載だった時代に言及した。「赤ちゃんはいないし、赤ちゃんを好きでさえないのに、なぜおむつを売り込んでくるのか」。しかし、これをタップしても全ての広告(自分に関係のある広告でさえも)が表示されなくなるわけではない。このような追跡をしなくても、ターゲット広告を配信する手段は他にある。
・小規模企業を支援できる
「これ(ポップアップ)については、消費者や母親としては理解できるが、企業経営者としては、やってられない」。こう話すのは、小規模な宝飾ブランドを経営するエリン・ラコア氏(35)だ。「もっと多くの消費者に届けられるはずなのに」。フェイスブックの広告ツールは、彼女をはじめとする多くの小規模企業の経営者が、自分たちの製品に興味を持ちそうな消費者に慎重にターゲットを絞るのを可能にしてくれる。
「人々に決断をしてもらうとき、私は彼らにA)自分の安全を考えもらいたいが、B)消費者として気に入るかもしれないものを見逃す可能性も考慮してもらいたい」とラコア氏は話す(小規模企業への影響については、同僚のクリストファー・ミムズ記者が最近のコラムで取り上げている)。
・インターネットを無料に保てる
フェイスブックは、今回の動きによって、アプリを無料にして広告で支援することができなくなる可能性があると主張している。フェデリギ氏は、アップルが数年前にブラウザー「Safari(サファリ)」にプライバシー機能を導入したときも同様の反応があったが、今もサファリでウェブサイトを閲覧する際に広告が表示されていると述べた。
意外ではないが、大半の人はトラッキングを拒否しそうだ。広告キャンペーンの効果を評価しているアップスフライヤーのデータによると、iOSの初期のATTの利用に基づけば、アプリ約550個のオプトイン(許可)率は平均で1個あたり26%だった。ゲーム以外のアプリや信頼するブランドについては、トラッキングを許可する確率が高いようだ。
どのような決断をするにせよ、考えはいつでも変えることができる。「プライバシー」設定のトラッキングのセクションで、アプリごとに選択を修正すればいい。
フェデリギ氏は「プライバシーに対する感覚やその重要性は人によって異なる」とし、「したがって、われわれは個人に関わる決断を全て自分でするようになる」と述べた。
フェデリギ氏個人は、オプトアウトすると決めている。筆者も多くのアプリ(特に自分の最も個人的な情報を扱うもの)について同様の選択をする予定ではあるが、ケースバイケースで検討し、各ポップアップを注意深く読むつもりだ。
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