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Wednesday, June 23, 2021

「打倒ヤマダ」のヒントは復調中のブックオフにあり? リユース(中古品売買)業界が生き残るヒント - ITmedia

 先月、日経新聞で「ヤマダ、中古家電店を100店体制に ESG対応急ぐ」という記事を見かけた。ヤマダホールディングス(HD)傘下であるヤマダデンキの中古専門店「ヤマダアウトレット」の店舗数を、今後2年で2倍の100店舗に引き上げるという内容だ。

 ヤマダHDの2021年3月期決算は、コロナ禍巣ごもり需要の追い風で、連結売上高が対前年比8.7%増の約1兆7525億円と好調だったようだ。中でも郊外の中古品を併売する店舗の売り上げが、新品のみの店舗より客数が1割ほど高いということから、中古品の取り扱い強化を加速することにしたという。

ヤマダアウトレットの店舗イメージ(出所:ヤマダデンキ公式Webサイト)

 ヤマダは、今期から家電+家具+住宅設備という新業態店を年間30店舗ほど出店する計画で、商圏の重なる既存店を中心に、中古取り扱い店に転換していくということらしい。かねて資源循環、リサイクル、廃棄物処理事業をグループ内に備え、資源循環型ビジネスモデルを整えてきたヤマダHDは、リユース事業もSDGsへの取組みの一環として位置付けて強化していくことを計画しており、23年のリユース家電生産台数(PCを除く)は20年比4.5倍にすることを目標としているようだ。

 中古家電を売るようになると、新品家電の売り上げが減るのでは――という懸念の声もあったというが、ヤマダはアウトレットの動向を見て、今の主要顧客層である、高機能の新製品を求めるファミリー層とは「別」の顧客層の開拓につながると判断しているようだ。

「中古で十分」な層は、案外幅広い

 確かに考えてみれば、家電は「最新の機能がついているから買ってみたい」というニーズが高く、そういった顧客層は中古品に関心はないかもしれない。ただ、単身赴任族や下宿学生などにとっては、家電としての機能さえあればいいのであろうし、最新機能などいらないと考える高齢者も、中古で十分という世帯は多いだろう。

 こうした背景を考えれば、家電量販店による中古家電の販売は新たなマーケット開拓の可能性があるかもしれない。また、新型店出店に伴う既存店の転換という意味合いからしても、既存店のスクラップコストを最小限に抑える選択肢として、やってみる価値は十分にありそうだ。

最新家電は機能が多すぎる?(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 今の日本の消費者が家電を購入する際、多くの場合、それまで持っていた家電製品を捨てて、新たな製品のためのスペースを確保することが必要だ。冷蔵庫、洗濯機、テレビ、などといった大型家電のみならず、調理家電、音響機器といったそこまでは大きくないものにしても、新しい製品を買おうとすれば、それまでの製品を捨てて置く場所を確保することが必要になる。

 最近ではエアコン、冷蔵庫などの大型家電に関しては、買い換えに伴う値引きなどをつけて販売促進しているのを見聞きした読者も多いだろう。家電製品が行きわたった日本においては、家電販売をする上で既存製品を引き取って処分するという工程が不可欠となりつつあり、家電量販店大手などは、この廃棄物処理工程をずいぶん前から整えている。

 しかし、家電リサイクル法の対象家電は別にして、積極的に中古品回収・リサイクルを行ってきたわけではなく、多くの場合、別ルートで中古流通、もしくは廃棄されてきた。廃棄物処理工程までを整えているのであれば、その中から修理してリユース可能なものは販売していく方が売り上げにもつながるということなのだろう。

 新品家電を売る家電量販店大手が既存使用製品の回収に本気で取り組むとなると、中古家電を販売している企業にとっては強力なライバルが出現することになるだろう。

 いわゆる、リユース(中古品売買)業界、リサイクルショップというビジネスにおいて、最も重要なのは「中古品を買い取る力」だといわれている。

 一般的に、新品の仕入れにおいては、メーカーとの交渉の中で相応の価格を提示すれば商品を調達することは可能だ。一方、中古品の場合はそうもいかない。売れ筋製品があったとして、それを売ってくれる人がいなければ、仕入れることはできないからだ。売りたい人と、買いたい人の場所的なアンマッチもあり、リサイクルショップは買い取り/仕入れを持続的に行える仕組みづくりこそが重要だともいわれる。

 この点でも、ヤマダのような新品販売の国内大手が、買い替え需要に対して中古品を積極的に引き取るとすれば、他の追随を許さない存在になりうる可能性がある。同社は家具、リフォームといった分野もこれから強化していくようなので、家電に限らず、幅広いジャンルに関するリサイクルループが構築されるかもしれない。

ヤマダの参入で、古参各社はどうなる?

 さて、ヤマダが中古品売買へ本格的に参入しそうだという話から転じて、他の中古品売買、リサイクルショップ各社は、コロナ禍の今どんな状況にあるのだろうか。

 この業界の上場大手企業といえば、ゲオ、ブックオフグループ(ブックオフ)、ハードオフコーポレーション(ハードオフ)、トレジャー・ファクトリーといった面々だ。これら各社について、直近の業績を見てみよう。

各社IR資料より筆者が作成

 ゲオは、ビデオレンタル店舗だけでなく、中古品小売業であるセカンドストリートなども運営しており、そのリユース売り上げ(20年度)は前年比6.9%増と、順調に推移しているようだ。一方、ブックオフ、トレジャー・ファクトリーは20年4〜5月の緊急事態宣言による休業の影響で、前年比マイナスとなっている。その他、ハードオフはプラス成長、参考値として掲出したバイセルテクノロジーズ、メルカリも大幅に伸びている。

 マイナス成長だったブックオフやトレジャー・ファクトリーにしても、既存店売上増減率の推移を見ると、増収基調に転じつつある。全体として中古品売買業界は順調な推移を示しているといえるだろう。

各社IR資料より筆者が作成。なお、21年4〜5月は前年同期が緊急事態宣言による休業の落ち込みが大きすぎるため比較不能と判断し、前々年比に再計算している

不用品売却に関する意外な調査結果

 こうした推移は、消費者の動向に裏付けられている。MMD研究所が4月に発表した「2021年 フリマサービス・アプリに関する利用実態調査」の結果を見てみよう。

 調査結果によると、モノの売却で利用する場所はリサイクルショップ(実店舗)が50.9%、フリマアプリが35.5%、買い取り専門店(実店舗)が32.3%となった。つまり、コロナ禍、あるいはITがこれだけ浸透した今でも、多くの人がリアル店舗にモノを持ち込んでいる傾向が明らかになった。

 フリマアプリは便利だし、送料が小さいものであればいいが、本当の不用品でかつ価格が高くないようなものだと手間ばかりかかるし、多くの不用品をいっぺんに処分してしまうのなら、リサイクルショップに持ち込んで終わり、という方が手間がかからないと感じる人は多いのだろう。まだもうしばらくコロナ禍が続く間は、実店舗を持つリサイクルショップに追い風が吹くのかもしれない。

 そうした中でも最近、筆者が特に注目しているのがブックオフだ。

 ブックオフといえば、チェーン店としては老舗といえる、古本販売出身の総合リサイクルショップであるが、少し前にはビジネスモデルの陳腐化がうかがえるような業績の低迷が続き、「オワコン」と囁かれるような時期もあった。しかし、最近は業績もかなり持ち直しており、コロナ禍による追い風も、今後はさらにプラスとなる可能性が高そうだ。

出所:ブックオフ公式Webサイト

 同社の特徴の一つは、リアル店舗とITをうまく融合している点だ。実際に店舗へ行ってみると、アプリのダウンロードを推進しているようすがうかがえる。そして、このアプリが結構「使える」のである。

 一般にリサイクルショップチェーンは単価が安く、配送コストを割けないことや、フランチャイズ加盟店が多いことなどから、「商品の店舗間移動」という概念がない。同社のネットサービス(ブックオフオンライン)も、以前は直接配送が基本で、一定の金額以上であれば送料無料という仕組みだった。

 ところが今は、アプリで検索した本を近隣のリアル店舗に無料で配送してくれるので、バラバラと頼んでも、その店舗へ取りに行けば送料もかからず、店舗で決済して引き取れるようになっている。

 筆者は仕事柄、参考図書として古本を集める機会も多いのだが、在庫量が多いブックオフだと、欲しい古本を入手できる可能性が結構高い。その上、近くの店にいくだけで、数冊単位から取り寄せできるので、とても重宝していて、最近では古本の購入は、かなりの部分がブックオフ経由になってしまった。アプリ利用者の増加と活性化が進んで、利便性向上が実感されれば、高い知名度と豊富な店舗網を持つブックオフは、今後さらなる業績改善が見込める可能性を持っているといえる。

追い風が吹く中古品売買、これからの課題は

 ブックオフのように、ネット/アプリ活用に活路を見いだすことができそうな中古品売買業界だが、気になることもある。

 例えば、値決めなどの透明性については改善の余地がある。コードや品番を検索することで、ある程度ネット上でも価格比較できる本や家電などに関しては、かなり透明性のある相場ができているが、そうでないジャンルもあるからだ。

 高級ブランド、貴金属、着物などの高単価商材に関しては、情報格差を活用した差益商売を目にすることも多く、「適法ではあるが、ずる賢い商売だ」と感じてしまうビジネスモデルも存在する。特に、地方・郊外で高単価商材を高齢者から買い上げるビジネスに関しては、多くが高齢者の情報不足や機動力の不足を逆手に取り、かなり安い価格で買い取ることで、収益を得るというパターンが多い。

 その価格差はかなり大きく、大都市で販売力のある店舗に買い取りを依頼した際の、半額以下であることもよくあるようだ。売った本人が「それでいい」というのならば何も悪くはないが、少し探せば、同じものでも倍で売れる別の店があることを知らないで、売れたと喜んでいる高齢者の話を聞くと、かわいそうに思うこともある。

 「地方や郊外などから集めてくるから、いろいろコストがかかるのだ」と反論されれば、その通りなのでこれ以上、余計なことはいわない。ただ、不透明な値決めで買い取られたと消費者が気付けば、業界の信頼度が大きく毀損(きそん)してしまう。ひいては、商品の流通が落ち込み、自らの首をしめてしまうことにもつながってくるはずだ。

 ヤマダの参入によって、今後中古品売買各社は、扱う商品ジャンルを増やしていくことだろう。そんなとき、不透明な値決めをしていれば、顧客離れは避けられない。そうならないためにも、ITを活用した透明性を徹底的に追求することが求められるといえる。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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