<U18W杯:日本3-2米国(3回表途中で荒天によりサスペンデッドゲーム=日本時間18日午後10時半再開予定)>◇17日(日本時間18日)◇スーパーラウンド◇エド・スミス・スタジアム◇7イニング制
米国戦を前に日本の決勝進出の可能性は消え、3位決定戦への出場が決まった。米国戦は2回裏に、先発した左腕森本が逆転を許しなおも無死満塁で、馬淵監督は今大会不調の山田をマウンドに送った。田村藤夫氏(62)は馬淵監督の采配と、それに応えた山田の力投に焦点をあてた。
1-2と逆転された2回裏は無死満塁。森本を救援したのは山田だった。決断した馬淵監督はすごいなと感じた。時折画面に映るピッチング練習中の山田の顔からは、いつものようにやってやるんだという闘志が見て取れた。
ここで追加点を許せば試合が決まる。台湾戦も、韓国戦も序盤に大量失点して一方的な展開になっている。先制はしたが、2点を奪われ逆転を許し、なおも無死満塁。序盤2回とはいえ、ここまでの日本代表の負けパターンからすれば、絶体絶命の大ピンチだった。
そこに、この大会ではいいところがなかった山田を起用する。その決断をした馬淵監督の度胸に、見ている私も圧倒される。おそらく、山田には米国戦では大事なところで行くから準備しておくよう伝えていたはずだ。だとしても、まさか逆転されての無死満塁で投入することになるとは、馬淵監督自身も想像していなかったのではないか。
それでも、もうこの局面においては、他の誰をマウンドに送れるのか。主将としてここまで歯がゆい思いをしていた山田にすべてを任せる、そういう心理だったと感じる。言葉を選ばずに言えばひとつの「懸け」に近い。命運を山田に託す、それほどの決断に見えた。
9番の右打者に対してカウント2-2からカットボールが外れてフルカウントになった。受ける捕手は渡部。松尾ではなく、はじめて組む渡部は勝負の1球を外角に構えた。この局面、見ている私ですら高まりを抑えられない。「打たれても何でもしょうがない。目をつぶって思い切り投げて来い」。それしか言えない、そういう極限のシチュエーションだった。
山田は渡部のサインに首を振って真っすぐを投げ、外角を狙うはずのボールは抜け、内角よりのやや高めへ。ストライクゾーンへの逆球になった。非常に危ないボールだったが、詰まった右飛。打者からすればミスショットとなるが、そこには不思議なものが働いたと感じる。
強いて言えば、球威に押されたということか。恐らく渡部は変化球のサインだったと思うが、これに山田は首を振り真っすぐを選択した。あくまでも強気で、という山田の心理がうかがえる。いや、むしろ強気というより開き直った山田が、ボールに込めた力で、ミスショットさせた、そんな1球だった。
甲子園では力感あふれるボールを投げていたが、フロリダに来てからは精彩を欠いていた。抑えで登板したパナマ戦では2点リードを守れず、韓国戦では先発も2回持たずに6失点(自責4)で打ち込まれた。まだ体がしんどいのかなと、私は感じていたが、この大ピンチで開き直る山田のボールを見て、ちょっとずつ体の強さが戻ってきたかなと、そんな思いもよぎった。
それでもまだ1死満塁。1番の左打者はカウント1-0から外角ツーシームで二ゴロ。ホームでフォースアウトとして2死満塁。2番も左打者だった。無死満塁から2死満塁。あとひと息だが、ここで打たれてしまえば元も子もない。追加点が奪われれば大勢が決するピンチに変わりない。
2番左打者には8球投げているが、7球までがツーシーム。徹底してツーシームで攻め、フルカウントから外角より、ベルトの高さのツーシーム。低めに抑えたいところだが、押し出し四球は絶対にできない。やや抜けたツーシームは、チェンジアップ気味に思ったほど落ちない。しかし、これが幸いする。打者はベルトくらいのまっすぐと思ったのではないか。泳ぎ気味の中飛に仕留めた。
紙一重の凡打が3人続き、大量失点の流れを食い止めた。最速143キロ。決して走ってるとは言えない。それでも、この場面で強気に投げる山田には、やはり投手として何かドラマチックなものを感じる。こんな場面で起用した馬淵監督の思いに応えてしまう。主将としての責任もあっただろう。
ここまでふがいなかったピッチングに対して、どこかで雪辱を期す強い決意を秘めていたのだと感じる。こうしたギリギリでの投手は、最後は気持ちだ、とよく言われる。マウンドで下を向く、しきりにベンチに視線を向ける、そういうしぐさに弱気がのぞくが、山田にはそんな素振りはなかった。
味方打線が3回表に伊藤の再逆転となる2点タイムリーで3-2と勝ち越し、雷雨によりサスペンデットゲームとなった。かなり時間が空いて、予定通りなら日本時間18日の午後10時半から再開される。
山田の状態が気になるが、無死満塁を切り抜けた強気のイメージを持ち、続投するならば、開き直るくらいの気持ちでマウンドに立ってほしい。
馬淵監督が主将を山田に任せたことが、大会の佳境でこうしてかみ合っていくのも不思議な気がする。こうした経験は、何物にも代え難い。まさに得難い体験を日本代表はしている。
それぞれの今後の人生に貴重なものを与えていると感じる。3位決定戦の相手は米国になるか韓国になるか、現状ではまったく読めない。しびれる展開を勝ち抜き、最後まで持てる力を出し切る試合をしてほしい。(日刊スポーツ評論家)
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