「大人の人見知り」が増えている
「最近では、人見知りという言葉が子どもだけでなく、大人に対しても用いられるようになってきました」
そう言うのは、千葉大学大学院で教鞭をとり、附属病院の認知行動療法センターのセンター長も務める清水栄司教授。
「人見知り」とは、他者とのコミュニケーションで強く不安を覚える状態を意味し、幼子ではふつうにみられる本能的なものだ。
ところが、成人になってもその心理状態が続き、「大人の人見知り」になる人が少なくないという。これが、日常生活に支障をきたすほどになると「社会不安症」という病気とされ、そこからうつ病になることもある。
だが、この大人の人見知り、克服することが可能だ。清水教授は、大人の人見知りに悩む人たちのセルフケアを網羅した著書『ナイーブさんを思考のクセから救う本』(ワニブックス)を出し、話題を呼んでいる。今回はその一部を紹介しよう。
■まずは自分の「思考のクセ」を知る
大人の人見知りに悩む人のほとんどが、ネガティブな感情をもたらす「思考のクセ」にとらわれているという。これは当の本人は自覚していないことが多く、まずはどういったものが思考のクセなのかを知る必要がある。
思考のクセは、大まかに分けると10種類。例えば「一般化のしすぎ」というのがある。意中の人をデートに誘ったが断られた時に、「もう誰とも付き合えないんだ」と思い込んでしまうのが、わかりやすい例。つまり、1回あったネガティブなことを全てに当てはめる思考のクセだ。
また、「結論の飛躍」というのもある。他者の発言・行動からネガティブな推測をして、「あの人は自分を嫌っている」といった結論に走ってしまうのがこれにあたる。
人の心を読みすぎて「結論の飛躍」をしてしまう(本書より)
これ以外に思考の悪いクセには、「全か無か思考」「感情的決めつけ」「自己関連付け」などある。清水教授は、「自分が陥りやすいパターンを知ることが大事」と説き、そこから思考の悪いクセを改善する方法をいくつか挙げる。
■寝る前に今日起きた良いことを書く
上で挙げた思考のクセの改善方法の1つに、「ぽじれん」(ポジティブ練習)がある。これは、寝る前に、今日起きた良いことを書き出すというもの。
良いことは1個だけでもいいが、「できたこと」「楽しかったこと」「感謝すること」に分け、3個ぐらいは思い出して書くようにする。シンプルだが、認知行動療法の理論に基づいたメソッドであり、清水教授はその効用を次のように述べる。
“「ぽじれん」を続けると、「今日、人に会って嫌なことを言われた」というネガティブな出来事ばかりを見るのではなく、「今日あいさつをしてもらえた」といったようなポジティブな出来事を見つけられるようになります。些細なことでも、毎日が楽しくなります。”
「ぽじれん」で今日あった良いことを見つける(本書より)
■会話を「うまくなろうと思わない」のがコツ
思考だけでなく、いつもの行動の習慣を少しずつ変えることで、生きづらさが改善される方法もある。
その1つが「うまく話をしようとしない」。
“ ナイーブさんや人見知りの方は、上手な話し方をしようと自らハードルを上げ過ぎて、かえってつまずいてしまっています。自分から話をするのはちょっとハードルが高いと感じるなら、まずは話を聞くことから始めましょう。
うまく人と話すコツは、逆説的ですが、うまくなろうと思わないことです。話し下手、聞き下手で構いませんから、まずは会話の場にいることです。”
清水教授がこう説明するように、会話の場では話す側であっても、聞く側であっても、うまくやろうとしないのがポイント。
コツは、「今のは上手にリアクションできたかな?」などと自分に注意を向かわせるのではなく、「相手を観察し、相手の話を聞くこと」に注意を向ける。親しくはない人との会話で沈黙が続いても、それは「当たり前」のことであり、「気に病む必要はない」とも。
また、大人の人見知りに悩む人は、対人関係において繊細で敏感な人でもあるが、そうした「個性」をコミュニケーションに生かす発想も必要。
その1つに「サンドイッチ話法」がある。これは相手に言いにくいことを話す際に、さりげなく感謝の言葉を挟む会話術。清水教授は、相手のミスを指摘する会話で、次の例を挙げる。
【相手に感謝】いつもありがとうございます。
【言いにくいこと】この間違いを直してもらえると(私は)助かります。
【相手に感謝】もちろん、いつもテキパキと仕事をしてくれて感謝しています。
感謝の言葉を挟んで言いにくい内容を伝える(本書より)
感受性が強く敏感な人を意味する「HSP」(本書では「ナイーブさん」)という言葉は、誰もが知る一般用語になったが、この気質の人には「たくさんの長所や魅力がある」と、清水教授は指摘する。
そして今、人々の価値観の変化や時代の流れが追い風となって、ナイーブさんが活躍しやすい土壌ができつつある。これを機会に、ネガティブな思考のクセや大人の人見知りを克服し、新たな世界に飛び込んではいかがだろう。
清水栄司教授 プロフィール
1965年山梨県生まれ。千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学教授、医学部附属病院認知行動療法センター長、子どものこころの発達教育研究センター長。 精神科医。1990年、千葉大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院精神神経科、プリンストン大学留学等を経て、現職。認知行動療法のスペシャリストとして、不安症(パニック症、全般不安症、社交不安症)、強迫症とうつ病などの治療に、複数の認知行動療法士とともにあたっている。
書籍内イラスト/ハルペイ(https://www.harupei.com/)
文/鈴木拓也(フリーライター)
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[01]〝察してくれる〟と思わず、言葉ではっきり伝えられる
相手の気持ちを「察する」文化を持つ日本人は、相手にも「察して」もらいたがる傾向が強い。しかし実際のところ、自分が思っていることと、相手が思っていることが全く同じというのはあり得ない。だからこそ言葉で伝えて、自分と相手の考えをすり合わせることができる人は、誤解を招くことなく、スムーズな人間関係を築くことができる。
[02]明るい挨拶と笑顔を欠かさない
何か事件があった時のインタビューで「あまり話したことはないけれど、いつも挨拶をしてくれる感じのいい人でしたよ」という答えをよく耳にする。このように、誰であれ、日頃から声に出して挨拶していると、相手は良い印象を覚えるもの。毎日顔を合わす会社の上司や仕事相手でも同じこと。明るい笑顔と声出し挨拶、それだけで十分好印象。自分も気持ちよくいられる。
[03]常に「聞く7割・話す3割」が意識できる聞き上手
どんなに話すのが苦手な人でも、自分の好きなことであれば饒舌になる人は多い。このように、人は自分の話をするのが好きな傾向にある。逆を言えば、自分とは関係ない相手の話を聞き続けるのは苦痛ということ。「聞く7割・話す3割」の、話すより聞くことに重きを置いた会話で、相手に多く話をさせることができれば、心の距離も縮められる。
[04]肯定表現が多い
謙遜する態度を尊ぶ日本では、褒められた時でさえ「自分なんてまだまだ」と否定的に答える人が多い。だが、否定的な表現をすることは、自分だけでなく一緒にいる相手にとっても気持ちがいいものではない。だからこそ、常に相手の気持ちを気遣い、どんな時でも肯定的な言葉や表現で話してくれる人は、それだけで好印象になる。何よりその人と一緒にいる時間が心地いいと感じてもらえるはずだ。
[05]返事や相づちのバリエーションが豊富
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