JR横浜線の町田駅と古淵駅のあいだ。団地に程近いピンクの園舎が、認定こども園モモです。少し歩くと鵜野森公園や境川、木もれびの森などがあり、自然も多い場所。
園には、0歳から5歳まで、96名の子どもたちが通っています。
卒園式間近の3月、神尾美香子園長先生をはじめ、石山佳子先生、青木史織先生にお話を聞いてきました。
相模原市南区を中心に、月に1回、子育て中のママ同士で、教育に関する勉強会をしたり、ぬらし絵や音楽の時間を子どもたちに作ったりしていたのが、モモの原点だそう。毎回どこかの場所を借りていたけれど、園があればそこでずっとできる。そんな思いと、社会福祉法人蒼生会が事業を広げるタイミングとが重なり、前身である保育園モモが生まれました。
開所から今年で22年となり、職員の中には、中学生当時、モモに職業体験に来た先生もいるのだとか。他にも、卒園生が職員になっていたり、高校生になりボランティア活動に来ていたり。卒園後のつながりも生まれています。
不完全なおもちゃ、自然の素材
モモの建物は、外から見るとまっすぐな外壁ですが、中に入ると、廊下はくねくねと曲がり、先が見えずちょっとした探検気分。出窓や壁には、子どもたちの作品や写真、季節のお花が飾られています。0歳〜2歳は年齢別、3歳〜5歳は異年齢混合のクラスになります。
お部屋を見渡すと、テレビやスピーカー、いわゆる既製のおもちゃはなく、目に入るのは、木、布、ひもといった、素材。棚には羊毛のボールや、毛糸のポーチなど、手作りのものも並びます。どうして、このようなおもちゃなのでしょうか。
「おもちゃには、子どもの力で補える余地を残しています。不完全なものがいい。自分で考える余地があるんです」と話す神尾先生。
「手作りのおもちゃは、子どもたちも、作り上げられていくプロセスが分かります。そうすると、壊れても、自分で直すことができる。あるいは、違う形にすることもできますよね。それは、人も一緒なんです。場が自分に合わないと思ったら、そこではない場で活躍したり、環境を変えたりできる」
遊びの中に、生き方の本質も隠れています。
この日は、草木染めをしている子どもたちがいました。使う花や葉の量、季節によって、色合いや濃淡も違ってくる草木染め。草木をさわる感覚、煮ている時の匂いなど、五感を育む活動の一つです。
「煮出したあとの花や葉は、土に還します。大人がやるそこまでを、子どもたちも見ているので、自然から『いただいている』という感覚や、畏敬の念を感じるようになるのではないでしょうか」と青木先生。
子どもたちは、遊びや生活の中からたくさんのことを学び、自分で生み出す力を持っている、と話します。
思い切り失敗できる、探究する
子どもたちに接する時に、どんなことを大切にしているのでしょうか。
「子どもが、安心して、いっぱい失敗できる環境を作ることですね」と話すのは、石山先生。何度でも、もう一回やってみたらいいんだよ!と声をかける。失敗を失敗で終わらせない。それは、子どもだけではありません。
「先生も失敗していいんですよ。子どもたちが助けてくれます。例えば何か壊しちゃったら、一緒に片づけてくれるとか。そういうことが、一緒に生活を作る、ということなんですよね」(石山先生)
また、子どもたちが自ら「どうして?」と思うこと。「その問いに対して、正解はなくていいから、探究することを大切にしています」と、青木先生は話します。
「はじめは、一人の子が不思議だなぁと思う。次第に周りのお友達も、それは不思議だなぁと思う。そうやって集まっていくと、みんなで探究して、5歳児くらいでみんなのものになるんです」
一人よりも、みんなでやるともっと楽しい、ということに気づいたり、他者と折り合いをつけられたり、ちょっと難しいことが楽しくなるのが5歳の頃だそう。一人の「どうして?」を、いつの間にかみんなで追いかけているのは、聞いているだけでも楽しそうです。
夏に、流しそうめんをやった時のこと。「お湯が沸騰したらね」と話した神尾先生。でも、沸騰とはどういう状態なのか?その説明はしません。子どもたちは実際に、鍋を火にかけて、ポコポコ泡が出てくるのを見て、「あぁ、これが沸騰なんだ」と分かる。「言葉の意味は、経験でつなぐ」と神尾先生は話します。
「答えをいい意味ではぐらかして、子どもたちが感じる時間を持つようにしています。ヒントをもらって考えることを楽しんでいる子もいますね」(石山先生)
子どもたちが感じる時間、考える時間、味わう時間。
大人の1時間と、子どもの1時間は、流れが全然違うと石山先生は話します。
「子どもたちのゆったりとした時間。それは大切にしています。遊んでいるうちに時間を忘れて、食べるのも忘れて。あ、カレーの匂いがしてきたな……そういえばお腹空いてるかも?なんていう時間の流れ方が最高ですよね」
好きなことに夢中になっている時間って、そうだったな、と思い出されます。
頭にも心にも栄養になる言葉や歌を
保育の場だけでなく、常日頃から、子どもに語れる言葉、見せられる行動、を選んでいるという神尾先生。
「頭にも心にも栄養になるような、言葉や歌を選んで使っています。歌や昔話には、生活の叡智がつまっているんです」と話します。
卒園児に向けてお話する、『うばっかわ』という昔話を教えてくれました。
あるところに、とても美しい娘がいましたが、継母に家を追い出されてしまいます。家を出る時、乳母が持たせてくれたのが、被ればお婆さんの姿になれる『うばっかわ』。器量の良さで、危ない目に遭うかもしれない。娘はそれを被って、本当の姿を隠しながら生きていく、というはじまりです。
「これから、小学校にあがり、子どもたちは荒波に揉まれます。うばっかわを被って、自分の身を守る方法だってある。どんなでも、生きていってほしいんです」
送り出される卒園児さんには、こんなエピソードがあります。
「卒園式は、ドキドキしないって言うんです。だから『園長先生、卒園式でどんなお話するか分からないよ?ドキドキしない?』と聞いてみました。そしたら、『私たちのことがどれだけ好きか、って話をするんでしょ』って」。
負けた!という表情で笑いながら、このやりとりを教えてくれました。
「自分のことをかけがえのない存在だと、分かっているんですよね。自己肯定感って育てるものじゃない。『あなたが発するもの、それは視線一つであっても、価値がある』。それを、赤ちゃんの頃から伝え続けているんです。そうすると、自分は大切な存在なんだと感じるし、お友達も大切な存在なんだと気づきます」
先生たちの思いは、しっかりと子どもたちに伝わっています。
「モモ」に込められた思い
「大切なことって、今も昔も変わらないし、変えちゃいけないんです。子どもを育てる、って面倒なことですよ。でも、その面倒くささを手放さない。環境を大きく変えることは難しいけれど、私たちが選択する一つひとつのことが、未来を作る」(神尾先生)
毎日時間に追われ、手軽なもの、簡単なものを、私はつい選びがちです。けれど、私を取り巻く未来は、そればっかりでいいのかな、とふと立ち止まる言葉でした。
じっくり考え、五感でどっぷり遊びに浸かって、想像する。知識だけではなく、実際に手や頭を動かしてできたことは、生きていく自信に、知恵につながる。子どもたちの根っこを育てるものは、きっと大人にとっても、生きる力を与えてくれるのではないでしょうか。
「モモ」という名前は、ドイツの作家、ミヒャエル・エンデの物語『モモ』に由来します。
時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた、女の子モモの物語。
モモのように、「聞く」ことを大切にしたい。そして、人が育つとは、成長するとは、という目を持ち続けたい。そんな思いから、この名前がついたそうです。
「子どもって、哲学者なんです。思いも寄らない言葉が出てきたりする。だから、この仕事はやめられない」。そう、楽しそうに笑う神尾先生。
子どもの発するもの・ことに全力で耳を傾け、全身で受け止める。その子の木がぐっと根を張って成長していけるよう、栄養になる言葉を、歌を、時間を注ぐ。
保育をしている今はもちろん、その先も「生きていってほしい」。先生たちの言葉には、その願いがあふれていました。
からの記事と詳細 ( 遊びや生活に、生き方のヒントが詰まっている。認定こども園モモ - 森ノオト )
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